8.おだやかな日常の中で

 「守司家は超能力を持つ一族だった」という、衝撃の事実を知った翌日。私たちは普通に登校していました。

 私が秘密を知ったからといって、何かが変わったわけではないようで、街は今日も平和です。


 さて、皆さんの能力を知って、いくつか気付いたことがありました。

 皆さんは登校中にも、超能力をこっそり使っているらしいのです。

 例えば、朝の登校中。景くんが目を閉じたり開いたりしていました。

 最初は「ちゃんと前を見てないと危ないです」と思ったのですが、どうやら違うみたいです。

 景くんの「千里眼」は、目を閉じている間に発動するそうです。景くんは、歩きながら「千里眼」を使うことで、自分のことを後ろから見たり頭の上から見たりと、色々な角度からチェックしているのだとか。

 場合によっては、振り向かないで後ろを見て、怪しい人がついてきてないか確認しているらしいです。

『ほら、ボクってかわいいからさあ、知らないお姉さんやおじさんに付きまとわれたことがあるんだよね~』

 とは、景くんの談。普通に警察沙汰です! 私も注意してあげなければ……。


 翔くんの場合は、もっと分かりやすいです。

 「透視」はメガネを外している時だけ発動するそうです。つまり、翔くんがメガネを外している時は、何かを「透視」している時なのです。

 例えば、登校中にメガネを外して物陰を見ていることがありました。どうも、物陰に怪しい人や動物が潜んでないか、透視してチェックしていたみたいです。

 きっと、景くんが付きまといを受けたことがあるから、気を付けてあげてるんですね。翔くんは優しいお兄さんです!


 ただ、蓮治くんと道輝くんについては、よく分かりませんでした。

 道輝くんの能力は「精神感応」、他人が考えていることが分かる超能力です。

 でも、相手が何を考えているか分かっても、軽々しく口にはしないでしょう? しかも、守司の超能力のことは秘密にしなければいけないのですから、余計にです。

 蓮治くんの能力にいたっては「念動力」。つまり、手を触れずに物を動かす力ですから、とても目立ちます。外で使っていたら、簡単にバレてしまうでしょう。


 ――そうそう、蓮治くんといえば、こんなことがあったんです。

 昨日、私が中庭で蓮治くんの超能力を目撃してしまったことが、全ての始まりでした。

 でも、蓮治くんは何故、あんな目立つところで超能力を使っていたのでしょうか?

 気になって、本人に尋ねてみたら、蓮治くんはこう答えたのです。

『今日は、お妙さん以外の女中さんはお休みで、屋敷には家族しかいなかったから。隠す必要が無いと思ったんだ』

 つまりそれは、私のことも「家族」と認めてくれている、ということでしょうか?

 蓮治くんには避けられていると思っていたので、ちょっと意外でした。

 ……けれど、そうですね。そういえば、五人で登校した最初の日、蓮治くんは私が目立たないように気をつかってくれていました。

 「避けられている」というのは私の思い込みで、実はとっても優しくされていたのでは?


 少し先を歩く蓮治くんの後ろ姿をじっと見つめます。

 もし、私にも道輝くんのような「精神感応」があれば、蓮治くんの気持ちが分かるのでしょうか?

 ――と。

「この能力でもね、人の心の奥の方にあるモノは、分からないんだ」

「っ!?」

 突然、耳元でささやかれてびっくりしました! どうやら、道輝くんに心の声を聞かれていたみたいです!

「ごめんごめん、玲那っち。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、時々勝手に『聞こえちゃう』ことがあってさ」

「あ、いえいえ。……でも、それって大変じゃないのですか?」

 周囲に気をつかいながら、ヒソヒソ声で道輝くんと話します。もし誰かに聞かれたら大変なので……。

「大変? なんで?」

「なんでって……」

 私は言葉に詰まってしまいました。

 他人の心の声が聞こえるということは、きっといいことばかりじゃありません。

 もしかしたら、目の前で笑顔で話している人が、心の中ではこちらの悪口を言っているかもしれないのです。

 幸い、私はそういう目に遭ったことはないのですが。あるいは、私が知らないだけで、本当は……?

「大丈夫だよ」

 ――と、そこでまた道輝くんがささやくように私に言いました。顔がとっても近くって、ちょっとドキドキしてしまいます。

「オレっち、生まれた時からこんな感じだから」

 ニッコリと、赤ちゃんみたいな笑顔を浮かべて、道輝くんが先に歩いて行ってしまいます。

 もうすっかり、いつも通りの明るい道輝くんです。


 その姿をぼうっと眺めながら、私はこう思いました。

 「四人のことをもっと知りたい」と。

 蓮治くんは、私のことを「家族」と言ってくれました。でしたら、お互いをもっとよく知った方が、きっと仲良く暮らしていけます!

「――おい! 玲那!」

「へっ?」

 その時、いつの間にか近くまでやってきていた蓮治くんに、後ろから抱きしめられました!

 え、ええっ!? どういう展開でしょうか!?

「ぼけっとしてんな! 赤信号だぞ」

「え、……あ」

 見れば、私たちはいつの間にか横断歩道に差し掛かっていたようです。

 四人はちゃんと道路の手前で立ち止まっているのに、私は今にも一歩踏み出そうとしていました!

 朝なので、道路には急いでいる車がわんさか走っています。蓮治くんが止めてくれていなかったら、きっと……。

「あ、ありがとうございます!」

「ったく、気を付けろよな!」

 歩行者信号が青になると、蓮治くんは不機嫌な顔のまま左右の安全を確認して、さっさと渡っていってしまいました。

 怒らせてしまったでしょうか?

「大丈夫だよ、玲那っち」

「わっ」

 またまた、道輝くんが私の耳元でささやきました!

 心臓に悪いので、少しやめてほしいかもです!

「蓮治っち、別に怒ってないよ?」

「そ、そうなんですか? それもやっぱり」

 「心の声がそう言っているんですか?」と、心の中で尋ねます。でも、道輝くんは静かに首を振って。

「心の声が聞こえなくたって、分かる。オレっちたちは、兄弟みたいなものだからな! あれはさ、とっさの事とはいえ玲那っちを抱きしめちゃって、照れてるんだぜ」

 道輝くんが、先を行く蓮治くんのことを指さします。

 そこでようやく気付きました。蓮治くん、耳が真っ赤です!


 そういえば、前によっちゃんとあっちゃんがこう言っていました。蓮治くんは「不機嫌王子」なのだと。

 もしかすると、今まで人助けした時に不機嫌そうな顔をしていたのも、照れているのを隠すためだった……?

「蓮治っちのこと、気になる?」

「気になるというか……本当はとっても優しいのに、誤解されてるんじゃないかって思いました」

「不器用だからね、蓮治っちは。ま、そこがいいところ! なのさ」

 そう言って笑った道輝くんはいつもよりちょっと大人びて見えて、なんだか「お兄ちゃん」に見えました。

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