第14話『ミルクの遺志。そして、モカの決意』

 ある夜。

 飼い主は、魔界ブリーダーから一冊の古びた本を渡された。


「これは、モカ様の祖母――ミルク様の記録です。魔界では“癒しの書”として保管されていました」

 飼い主は、ページをめくった。

 そこには、魔界の戦場でミルクが兵士の膝に乗って眠る姿、

 議会で怒号が飛び交う中、ミルクがくぅんと鳴いて場を静める様子――

 小さな体で、大きな世界を変えていった記録が並んでいた。


「……すげぇな。お前の祖母、魔界のアイドルだったんじゃないか?」

 モカは、静かに本を見つめていた。


「あたしは、祖母のことを“伝説”としてしか知らなかった。でも、こうして見ると――ただ、誰かの隣にいただけなんだな」

 飼い主は、そっと笑った。


「それが一番すごいことなんだよ。誰かの隣にいて、世界を変えるってさ」

 モカは、目を細めた。


「あたしも、そうなりたい。お前の隣にいて、世界を少しだけ優しくしたい」

 その言葉に、飼い主は胸が熱くなった。


「……お前、ほんとに犬か?」

「四分の一はね」

 その夜、モカは夢を見た。

 祖母・ミルクが、魔界の空の下で笑っていた。


「あなたは、誰かの居場所になれる。それだけで、十分よ」

 モカは、目を覚ました。

 そして、飼い主の枕元で静かに座っていた。


「……あたしは、進化する。でも、進化の先に“優しさ”があるようにしたい」

 飼い主は、目をこすりながら言った。


「……朝から重いな。とりあえず、散歩行くか?」

 モカは、ふっと笑った。


「それが、あたしの“使命”かもしれないな」

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