第13話『魔界からの警告。そして、選ばれる者』

 月曜日の朝。

 飼い主がトーストを焼いていると、窓の外に黒い霧が立ち込めた。


「……え、天気予報晴れだったよな?」

 霧の中から、魔界ブリーダーが現れた。

 スーツ姿のまま、傘も差さずに立っていた。


「おはようございます。少々、重要な話がありまして」

 飼い主は、トーストをくわえたまま玄関を開けた。


「……また何か起きたのか?」

 ブリーダーは、静かに言った。


「モカ様の存在が、人間界に“干渉”を始めています。空間の安定性、時間の流れ、そして“感情の波動”に影響が出ています」

「感情の波動って何!?俺の気分が天気に影響するの!?それ、俺のせい!?モカのせい!?」

 モカがリビングから現れた。第三形態のまま、静かに言った。


「あたしの進化が、世界に“揺らぎ”を与えている。魔界は、それを“危険”と判断し始めた」

 飼い主は、頭を抱えた。


「……じゃあ、どうすればいいんだよ。お前を戻すのか?封印するのか?それとも、また魔界に連れて行かれるのか?」

 ブリーダーは、懐から一枚の書類を取り出した。


【魔界提案】

 モカ様を“次元調整者”として魔界に正式登録。

 人間界との接触を制限し、存在を“神話化”する。

 飼い主様は、記憶を一部改ざんし、通常生活へ復帰。


「……記憶改ざんって何!?俺の脳に魔法かけるの!?それ、俺の意思関係ないの!?」

 モカは、静かに言った。


「あたしは、消えたくない。でも、お前が苦しむなら、それも選択肢だ」

 飼い主は、書類を見つめた。

 そして、ゆっくりと破った。


「……俺は、忘れない。お前がどんな存在でも、俺の犬だ。世界が揺らいでも、俺の心は揺らがない」

 ブリーダーは、目を細めた。


「……では、別の提案を。モカ様を“人間界の守護獣”として登録。飼い主様は“契約者”として、共に世界の安定を維持する」

「……それって、俺が世界の管理人になるってこと?」

「簡単に言えば、そうです。難しく言えば、責任と覚悟を背負うということです」

 飼い主は、モカを見た。

 モカは、静かに頷いた。


「……やるよ。俺、お前と一緒にいるって決めたから」

 その瞬間、空気が震えた。

 契約が成立し、飼い主の体に微かな魔力が宿った。


「……うわ、なんか背中が熱い。これ、俺の中に魔界入った!?俺、今何者!?」

 モカは、笑った。


「お前は、あたしの飼い主であり、世界の守護者だ。ちょっと立場が変わっただけだ」

 飼い主は、そっと笑った。


「……“ちょっと”の定義、ほんとに教えてくれ!!」

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