第3話『魔界からの郵便物、そしてブリーダー再来』

 その日、ポストに奇妙な封筒が届いていた。

 差出人欄には、見慣れない文字。

 まるで燃えかけた紙に、爪で引っかいたような筆跡。


「……なんだこれ。英語でもないし、日本語でもないし……」

 飼い主は恐る恐る封を開けた。

 中には、黒い羊皮紙に銀色のインクで書かれた手紙が入っていた。



 Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж


 拝啓


 モカ様の成長、確認いたしました。

 魔界血統管理局より、定期検査のご案内です。

 次の満月の夜、指定の魔法陣にてお待ちしております。

 なお、飼い主様の同伴は任意ですが、精神耐性が低い場合は推奨いたしません。


 敬具


 魔界ブリーダー協会・第七分室


 Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж~~Ж



「……精神耐性って何だよ」

 飼い主は手紙を持ってリビングに戻ると、モカがソファでくつろいでいた。

 テレビでは朝の情報番組が流れている。

 モカは、コメンテーターの発言に小さく鼻で笑った。


「人間の“多様性”って、都合のいい言葉よね」

「お前、テレビ見ながら評論すんなよ。で、これ…なんだ?」

 飼い主が手紙を差し出すと、モカはちらりと目を通した。


「ふむ。あいつら、まだあたしを追ってるんだ」

「“あいつら”って誰だよ。ブリーダーか?」

「いや、魔界の血統管理局。あたしの存在は“異端”だからね。犬と悪魔と狼人間の混血なんて、魔界でも前例がない」

「……そりゃそうだろうな」


 その夜、インターホンが鳴った。

 画面には、スーツ姿の男が立っていた。

 だが、よく見ると、肌は灰色で、目が真っ黒だった。


「……来たか」

 モカが立ち上がった。

 飼い主は震えながら玄関を開けた。


「こんばんは。お久しぶりです。モカ様のブリーダーです」

 男はにこやかに微笑んだ。

 だが、その笑顔はどこか“人間のそれ”とは違っていた。


「今日は、モカ様の“進化状況”を確認に参りました。ついでに、飼い主様の精神耐性も測定させていただきます」

 飼い主は、玄関のドアをゆっくり閉めた。


「あの…帰ってもらっていいですか?」

 ドア越しに飼い主が言った。


「無理ですね」

 再び玄関のドアが開く。


 こうして、飼い主は“魔界の来訪者”と向き合うことになった。

 モカは、ソファに座ったまま、爪を磨いていた。


「言っとくが、あたしはまだ“第一形態”だよ」

 飼い主は、頭を抱えた。


「第二形態とかあるのかよ…」

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