ちょっと変わった犬と、ちょっと変わった飼い主の話

槙 秀人

第1話『届いたのは、チワワ…の皮をかぶった何か』

「……ちっちゃ」

 段ボールを開けた瞬間、飼い主は思わずつぶやいた。

 中には、ふわふわの毛並みをしたチワワがちょこんと座っていた。

 首をかしげてこちらを見ている。

 目はくりくり。鼻はちょん。耳はぴん。

 どこからどう見ても、普通のチワワだ。


「これが“魔界由来ミックス犬”ってやつか……」

 飼い主は、数日前にネットで見つけた怪しいブリーダーのことを思い出した。

 サイトのデザインは90年代風で、フォントはやたらとギザギザしていた。


「人間界では手に入らない希少種!」

「魔界直送!」

「返品不可!」

 そんな文言が並ぶ中、ひときわ目を引いたのがこの犬だった。


【商品名】チワワ♀(悪魔×狼人間×犬)

【性格】気まぐれ。プライド高め。たまに念話します。

【注意】魔界の月に反応する可能性あり。

【価格】送料込み 9800円(魔界通貨換算)


「まあ、安かったし…」

 飼い主は犬をそっと抱き上げた。軽い。ぬいぐるみみたいだ。

 だが、抱いた瞬間、背筋にぞわりと冷たい感覚が走った。


「……なんか、冷たくない?」

 犬はじっとこちらを見ていた。

 その目が、一瞬だけ赤く光ったような気がした。


「気のせいか……」

 その夜、飼い主は犬に「モカ」と名付けた。

 理由は、毛の色がカフェラテっぽかったから。

 モカは特に反応を示さなかったが、名前を呼ぶと必ず目を細めた。

 それが「気に入った」のか「呆れている」のかは、まだわからなかった。

 翌朝、飼い主が目を覚ますと、モカはベッドの上で座っていた。

 まるで、ずっと見張っていたかのように。


「おはよう、モカ」

 その瞬間、頭の中に声が響いた。


「おはよう。結界、張り直しといたよ?」

 飼い主は、ベッドから転げ落ちた。


「……今、しゃべった!?いや、しゃべってない!?でも聞こえた!!」

 モカは、何も言わずにあくびをした。

 その口の奥に、鋭い牙がちらりと見えた。


「っていうか結界って何?まさか…『魔界由来』ってマジなわけ???」



 こうして、飼い主と“ちょっと変わったミックス犬”の共同生活が始まった。

 次に騒ぎになるのは、近所の犬の集会に参加したときである。

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