わたしは、あなたのボイス担当です
きんもぐら
しばらくは私が貴方の担当ボイス
登校時間の教室。
ざわめきがうるさい中、本のページを捲る音。
ガラッと教室の扉が開き、一人のクラスメイトが近づいてくる足音。その子はメルヴィンの前の席の女子である。
椅子を引けば、机にぶつかる。
わざとぶつけたようで勢いがあった。
男子の方を向いて座る。
「おはよう。しばらく休んでたでしょ。もういいの?」
風邪を拗らせてしまったので声がまったく出せないことを、身振り手振りで伝える衣擦れの音。
「え…?もしかして声出ないの?うわぁだいぶ拗らせちゃったんだね。最近の風邪って喉にくるんだね。ふーん、結構不便じゃない?それ」
頷く。
「ならさ、私がしばらく君の声になってあげよっか」
驚いた後、ちょっと嫌そうな顔をする彼に、彼女は抗議してくる。
「いやいや、ここは助かった、ありがとうでしょ?なんで嫌がるかね。そんなんだからクラスに馴染めないんだよ」
紙と鉛筆を取り出し、走り書きをする音。
女子は、んー?と至近距離まで顔を近づけて手元を覗き込む。
そこに書かれていたのはつたない日本語。
所々英語で書いてある。
「そっか。日本にきたばっかりだから日本語はペラペラでも書くの苦手なんだね。なら尚更、私に任せなよ。英語得意だし、読めるよ」
頭をかく音。そしてメルヴィンの溜め息。
「いいのいいの遠慮しないで。大変な時はお互い様」
勝手に決めるなと書かれるが、女子は一人で納得したように頷く。
「うんうん、任せなさい」
首を振るが、彼女は止まらない。
「先生には私から言っとこうか?」
シャーペンで文字を書く。
日本語で書いていたが、話したい言葉が追い付かずイライラし、書いた矢先にぐちゃぐちゃと線を引き、英語に書き直す。
「意外と気が短いよね。…ふむふむ。先生には連絡してる…か。じゃあ大丈夫だね!」
本当に読めるんだな、と書くと紫藤は笑う。
「本当によめるんだ、な?ふふっ学生の本分は学業だよ?それとも、居眠りばっかしてるから成績悪いと思った?」
目線を反らす彼。
「そこはお世辞でもそんなことないって言うとこだよ」
チャイムが鳴る。
生徒達がバタバタと自分の席に座る。
ほどなくして教室の扉が開き、先生が入ってくる。
「困ったら、肩でも叩いて呼んで」
彼女は前を向いてしまう。
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