第2話:選択
変なのに襲われてから約30分後。
俺は今、ねーちゃんとさっき会った女の人、川辺さんって女の人に連れられて
建物に向かい、ケガの手当てを受けて待機中だ。
今から15分ほど前、俺はどこかのビルの医務室に姉と共に案内された。
川辺さんはこの事を上に報告してくるってことで医務室に向かう途中で別れることとなった。
部屋に入ると、お医者さんとして部屋の奥から
ふわふわの金髪で青い目の女の人が出てきた。
ぱっと見はアメリカか、ヨーロッパ辺りの出身かなと思う。
超絶綺麗だ。モデルさんみたい。
姉ちゃんがその人に話しかける。
「弟の手当てを頼んだよ、クリスティーヌさん。」
すると、金髪の人は流暢な日本語と
綺麗なソプラノ声で答えた。
「もう、呼び捨てで良いって言ったでしょ?同期なんだし、せめてちゃん付けにしてよ。」
彼女はぼやいたあとに咳払いをすると
俺に優しく微笑んできた。
「美月ちゃんの弟くんだっけ?
私はここで働いてる
クリスティーヌ=マノン・アルノーと言うの。
よろしくね。
気軽にクリスティーヌと呼んでね。
もう大丈夫よ。怖いのをよく耐えたわね。」
「姉が守ってくれたのでそこまでは怖くなかったです。」
「そう。なら、これから痛いのを取るから
もう大丈夫よ。」
「仕方ないですよ。
準備できてます。」
「それなら助かるわ。
じゃあ、そこのベッドに座って
傷を見せてくれる?」
言われた通りに近くのベッドに腰掛けて
制服の上を脱いで行った。
ブレザーとネクタイは難なく外せたが
シャツは繊維が傷跡についたのか、少し痛い。少し格闘していると、クリスティーヌさんが脱がすのを手伝ってくれた。
「それじゃあ、今から切り傷に効く薬を塗っていくわね。」
と、クリスティーヌさんは声がけして
痛みに耐える時間を設けてくれた。
薬を塗る準備をしてる間に俺は脱いだブレザーを膝の上に置いて軽く握った。
クリスティーヌさんが脱脂綿に薬を湿らせてから腕に塗ってきた。
「ぐっ・・・!」
悲鳴を噛み殺してブレザーに爪を立てて
必死に耐えた。
クリスティーヌさんは傷を治すためにやってくれてるんだから彼女を睨むのはお門違いだ。そこからは極力無心でいるように努めたと思う。
「ごめんなさい、痛いよね?」
クリスティーヌさんが傷つけたわけじゃないのに、心底申し訳なさそうな顔をして
まるで自分も痛いように声をかけてきた。
文字通り、この人は白衣の天使という言葉が実写化してる気がする。
「それじゃあ今から傷を治していくわ。
すぐ終わるから大丈夫よ。
でも、少しびっくりするかもね。」
クリスティーヌさんが俺の傷ついた部分に優しく触れた。
クリスティーヌさんの手のひらを
通して俺の身体の中に何かが入って行く感覚がした。
不思議と嫌悪感は無く、傷が痛む部分を全て優しく覆われたような感覚がした。
その感覚を目を細めて味わっていると
視界の隅に目を疑う光景が飛び込んできたので思わず凝視した。
腕にあった傷跡がどこにも無い。
当然ながらというべきか、痛みはとっくに引いている。
この腕で日常生活を送れそうなのはもちろん、このままいつも通り部活にも参加できそうだ。
「はい、おしまい。お疲れ様。
少しの間リラックスしててね。
治したところに変な事があったら
すぐに声をかけてね。」
そう言うとクリスティーヌさんは奥に引っ込んだ。
なら、お言葉に甘えてとスマホをいじり
母に帰りが遅くなることを伝えようとしたものの、どうやって伝えたものかと
怪しまれないプロットを考える。
流石に一人ではマシなのが思いつかない。
姉ちゃんが確か医務室の出入り口辺りに引っ込んだことを思い出し、その場から声をかける。
「姉ちゃん、家に帰るのが遅くなる母さんへの説明考えて。」
「もう送った。
母さんにはアンタが部活の疲れで
うちの家で寝てる事にしてるから
口裏合わせて。」
「わかった。
手回し早いな。」
「この組織では魔法は一般人には秘密なの。あの時はかけ忘れたけど。」
「かけ忘れるとどうなるの?」
「今みたいに魔法が使えるって
一般人にバレる。」
「一般人にバレたらどうするの?」
「魔法を忘れてもらうの。」
「魔法なんて便利なもの
忘れるようにするのはもったいないと思うけどな・・・」
「アンタなら変なことには使わないだろうけど助けたヤツの中には悪用するやつとかいるかもしれないからね。
変な事に使われないように魔法は原則隠す。それがこの組織の決まりなの。」
「そうなんだ・・・。」
もったいないけど悪用を懸念するという点では正しい。
これ以上は考えると頭が疲れてくるので
ベッドに寝転ぶ。
喉が渇いてきた。それもそうだ。
数分前まで喉の渇きなんて気にしてられない状況だったんだから。
姉に頼んで自販機でカルピスを買ってきてもらった。
ジュースを数口飲んだ後に川辺さんが
医務室に入ってきた。
「拓真くん、調子はどうかな?」
「金髪のお医者さん・・・クリスティーヌさんに治してもらいました。
腕はもう痛くありません。」
「それならよかった。
それじゃあ今から
これからの事を説明するから
ついて来て。」
川辺さんだけでなく、姉も目で行動を促してきた。
俺は立ち上がって二人の後を追いかけた。
数m歩いて、エレベーターで下に降りる。
そしてまた数m歩いたところにあったドアに俺は通された。
中は会議室のようだった。
川辺さんが向かい側席の中心に座り、
姉が俺の斜め左後ろに控える。
川辺さんが俺も座るように手で促してくれたので向かい合って席についた。
「改めて、私は川辺 明里。
探偵と、この組織の職員の二足のわらじを
履いているイケメンお姉さんさ。
まあ、二足のわらじを履いているのは
ここにいる人たちみんなそうなんだけどね。」
「とりあえず、姉がお世話になってます。」
と一礼する。川辺さんはこちらこそと
会釈を返してくれた。
「まあ、雑談は置いといて。
今回の件を単刀直入に言おう。
学校帰りの君を襲ったのは魔物という、
魔法を使う怪物だ。
そして、君の姉さんと私、および金髪のお医者さんはこの同じ組織に所属している人間だ。
そして、この組織に所属している人間は魔法を使う事ができるんだよ。
私たちのように魔法を使って魔物と戦う人間のことは以降、この組織の用語、
スレイヤーと呼んでいくから覚えておいてね。」
「わかりました。スレイヤーは全員魔法が使えるもんなんですね。」
「ただね、君のお姉ちゃんが話してくれた通り、うちの組織では魔法を使えない人に魔法を見せちゃいけないわけ。
普通に使われるならいいんだけど、
魔法を悪用する人を出さないためだ。
そのために、カーテンって魔法をかけて
からああやって魔物を倒すんだけどね。
うちの弟子がかけ忘れちゃってねー・・・」
「すみませんでした・・・」
と姉が申し訳なさそうな顔をして
川辺さんに向けて頭を下げた。
「ほんと、うちの姉がすみませんでした・・・」
「アンタはうるさい」
と俺に対しては間髪入れずに姉は言い返す。
「まあまあまあ。
あの時は仕方ないとも。
情状酌量の余地はある。
ただ君、かけ忘れたの初犯じゃないからね・・・。」
川辺さんが苦笑いしながら言うと、
姉はまた申し訳なさそうに顔を顰めた。
「一般人が魔法に触れたら、選択肢は2つ掲示される。今日のことを忘れるか、
魔法を知るかだ。」
川辺さんは今まで終始ニコニコしていたけど、
口元をキュッと結んでまっすぐこっちの目を見て口を開いた。
「選びなさい。
穏やかな日常に戻るか、時に命の危険を感じる非日常を送るか。」
「俺は・・・非日常を取ります。」
「その心は?」
「知らないことを知れるようになって
できないことができるようになるのは楽しいですから。
それに、たまにスリルを感じるのなら
なおさらですよ。
もちろん、今日のことみたいに生命のリスクがかかる時がたまにはあるんでしょうが、死ぬつもりはありません。」
川辺さんは俺の言葉を目を細めて聞いてしばらく黙っていたが、やがてくくくと
声を顰めた後にあはははっと声を上げて笑い出した。
「さすが、若いね。
恐れを知らず、自分のやりたい事を通そうとするその姿勢。
それがどこまで続くのか、どうやって貫き通せるのか見させてもらうよ。」
川辺さんは一息つくと、また口を開いた。
「私個人としては半分、若い子が危険な目に遭うのはいかがなものかと思うけど、
あとの半分は子供を守るのが大人の役目だと思っているよ。
スレイヤーとしての私から言うなら
新入りが増えるに越したことは無いから
君を歓迎するつもりだ。」
「ありがとうございます。
今日からよろしくお願いします。」
「ただね、今日はもう遅い。
お姉ちゃんと一緒に帰って身体を休めるといいよ。」
「わかりました。」
「後はそうだな。
たぶん私とまた会うのは少し先延ばしになるだろうね。
君、一応巷の事件に巻き込まれた被害者だから警察とかが少し騒ぐかも。
だから今連絡先交換していい?」
「オッケーです。」
こうして姉弟揃って川辺さんの世話になる事が確定した。
「それじゃあ元気でね。」
と川辺さんは俺と姉ちゃん二人に手を振って見送ってくれた。
川辺さんの言う通り、俺がまた組織のことで呼び出されたのは約1週間後になった。
犬に襲われたことは確かに襲われたが
姉ちゃんが追い払ってくれたと言う筋書き通りに対応したものの、引き裂かれたバッグが物的証拠となり、警察はともかく
どこから嗅ぎつけたのか、記者のインタビューも匿名で1つ受けた。
朝の通学途中に川辺さんからメッセージをもらった。
内容は
『魔法について教えてあげる。
これから必要だからね。
学校終わりに迎えに行くから。
一つ準備して欲しいものがある。
動きやすい服を持ってきてね。』
というシンプルなものだった。
俺は休み時間にどこで待ち合わせるかなどのやり取りを交わし、動きやすい服として体操着を持っていくことにした。
下校した後、組織の
最寄り駅まで川辺さんが車を出して拾ってくれることとなった。
川辺さんが出してくれた車の助手席に座ると、俺はまた治療を受けた建物まで案内された。
昼である今改めて外観を見てみると、
外には株式会社Knight's Taleと書いてある。とは言え俺は英語はあんまり得意じゃないので会社名が何の意味なのかはわからない。
「ケニグツタレ・・・??」
独り言を聴き取ったのか、川辺さんは
あはははっと声に出して笑った。
「ナイツテールだよ。
騎士の物語って意味だね。」
「これで騎士って英語で書くんですね。」
「そうそう。
KnightのKは黙字-発音しない文字だから
少しわかりにくいかもね。
英語のお勉強はここで終えようか。
この株式会社ナイツ・テールは
表向きかつ資金源なんだ。
外資系の警備会社みたいだね。
ここ、関東以外だと北海道、大阪、広島に支部があるみたいだよ。」
「手広くやってるんですね。
まあ、お金はいくらあっても困りませんもんね。」
「まさにまさに。
・・・さあ、そろそろ車を駐車場に入れるよ。
あまり停めてたら駐禁切られちゃうから。」
そう言われて川辺さんが会社名を読めるようにするために車を停めてくれてたのだと気づいた。
川辺さんは女性だけどこんなに気遣いができるカッコいい男になりたいなと
心の中で誓いつつ、そこからは指示に従った。車から降りると、また事件の説明を受けた会議室に通された。
椅子に座るのと、筆記用具とノートを取り出すよう指示されてその通りにする。
川辺さんは俺が準備完了だと判断すると、
机の上に片手を突いて少し体勢を崩してから話し始めた。
「まず、マジエンスとはなんぞや?ってなるよね。そこから説明しよう。
マジエンス・・・。
マジック(魔法)のマジに、サイエンス(科学)のエンスを組み合わせた用語だよ。
魔法の存在を科学で確立してるってわけ。」
「魔法と科学を融合させたってことですか?」
「そう言う事。
察しが早くて助かるよ。
人間には誰しも魔力を持っている。
よく言うでしょう?言霊とか、虫の知らせとか」
「聞いたことはあります。」
「不可能を可能にする力。
現実に奇跡のような確率で、起こしたいことを起こす力。それが、魔法だよ。」
「なるほど。」
「とは言えこう言われても身近には感じづらいよね。
もっと掴みやすいもので言うなら・・・。
そうだな。ピーターパンの物語は読んだことある?」
「はい」
「ピーターパンは空の飛び方をこう教えるよね。
妖精の粉をふりかけて、楽しいことを考えて!って。
マジエンスに当てはめるなら、
“空を飛ぶ"と言う魔法を
"魔力"と"誕生石のついたデバイス"の
2つで魔法を展開するわけ。」
「魔力はともかく、なんで誕生石が必要なんですか?」
「誕生石がを身につけると運気が上がるって俗説があってね。
魔法的に見ると誕生石は正のエネルギーを生み出すものみたい。」
「正のエネルギー?」
「魔法はポジティブな事象から発生する 正のエネルギーとネガティブな事象から発生する負のエネルギーがバランス良く合わさって起きるものなわけ。
負のエネルギーは人間いつでも作れるわけだから、純粋な正のエネルギーである誕生石の力が必要ってわけさ。」
「なるほど・・・。」
「とは言えこう言うのは百聞は一見にしかずだ。
さっそく体験してみよう。」
そう言うと川辺さんは席を立つように促した。
言われた通り椅子をしまって立ち上がる。
「いいかい?
まずは深呼吸して、自分の身体の内側の音を聞くんだ。
そうしたら、感じるはずだ。
血液とは違う何かが流れていることを。」
「わかりました。」
言われた通り、目を閉じて深呼吸する。
心臓の音と骨の軋む音が聞こえてくる。
「もっと深く集中して。」
言葉の代わりに頷いて集中する。
心臓の鼓動と骨の軋む音、血液の流れを
感じる。
「今は何を感じるかな?」
「心臓の音と骨の音、あとは血液が
全身に流れてるのを感じます。」
「オーケー。それなら
魔力の感知まではあと少しだ。
これは、流れているというより澱んでいる感じかな。
力の塊が君のどこかにあると思うから
探して感じ取ってみて。」
言われた通りに魔力を五感で探してみる。
血液とは違う大事な何かが俺の中にある。
それを探す事。
その一点のみに集中すると、体で言うと鳩尾の下辺りに意識を集中すると、体からムズムズする感じがした。
「これか・・・?
なんかみぞおち当たりを意識するとムズムズします。」
「それだね。よく見つけたもんだよ。」
と川辺さんは嬉しそうに頷いた。
「何で断言できるんですか?」
「魔力を全身に流していると自分だけでなく、他人の魔力も知覚できるようになるんだよ。君もそのレベルまで来れるよう、
今日から頑張ってね。」
「はあ・・・。」
「そんな顔しないでよ。
魔力を全身に流すとメリットがあるんだから。」
「どんなメリットなんです?」
「効果は2つあるね。
一つは身体と精神の強さがアップする。
もう一つは、魔物に攻撃が効くようになるんだよ。」
「え、じゃあデメリット0じゃないですか?」
「今のところデメリットは聞いた事がないね。なら、拓真くん。
さっき鳩尾あたりに感じたそれを
全身に染み渡らせてみて。
イメージとしては
フレンチトーストを作るとき、
食パンに乳液を染み込ませるみたいに。
髪の毛の先や、爪の先までしっかり魔力を流すようにするんだよ?」
川辺さんの丁寧な説明を脳内で具現化してその通りにしてみる。
少し固まっていた何かが揺さぶられて動くような感覚がしたあと、それがのそのそと全身にまとわりつく感覚がある。
「初めてにしては上出来な方だよ。
私の教え通りスムーズに行ってて
こっちが少し怖く感じるくらいだ。」
川辺さんは言葉では怖がってる様子だけどこちらに軽く拍手を送っていた。
「ありがとうございます。
このまま意識していけば俺は魔法を使えるようになりますか?」
「なれるさ。
でも、注意してね。
現実に強力な影響を及ぼす魔法は
魔力をたくさん消費するってことを
忘れちゃダメだよ?
まあでも、さっき話した
"誕生石のついたデバイス"
これをつけてればデバイスに掲載されているAIが必要以上に
魔力を消費しないように
コントロールしてくれるから大丈夫だよ。」
「それならよかったです。」
「と言うわけで、あとでデバイス作成を
申請する用紙を渡すね。
それで名前と誕生日を書いて欲しいかな。」
「わかりました。」
「ああ、あとそうだ。
戦闘になった時に着る服を作りたいから、
後で服のサイズも教えてね?」
「了解です。」
「よしよし。
座学はこの辺りにして、
これから実技に移そうか。
君の先生を探しに行こう。」
そう言うと川辺さんは荷物をまとめるよう促した。
川辺さんに連れられて会議室を出て数m歩くこととなった。
その道中、紙を1枚渡された。
「これが、今からいる部屋にいる先生たちの教えられる武器だよ。
何を教わりたいか今のうちに決めとくといい。」
説明を聞きながら俺は紙に目を通した。
紙には五十音順で
・ウィリアム・ハワード:長銃
・エステル・ハワード:拳銃・銃剣
・川辺 明里:格闘技全般
・喜友名 麗香:棒術全般(槍、薙刀、警棒など)
・宍戸 一:刀剣術全般
と人の名前と教えられるものが書かれていた。
教わる武器は・・・。
ウィリアムさんとエステルさんから銃を教わるか。
頭の中で銃を教わる理由を整理しながら
川辺さんの後について行った。
川辺さんは相変わらずニコニコしているけど、どこかホッとしたような顔をしていた。
「さあ、この部屋の奥だ。
先生達が待ってるよ。」
「失礼します。」
と数回ドアをノックして部屋に入った。
部屋に入ると、ダンススタジオのような
360°全身が見える大きさの鏡がついている部屋に、4人の男女が立っていた。
全員ネームプレートを首から下げており、
左から喜友名さん、宍戸さん、ウィリアムさん、エステルさんの順番で俺の方を見つめている。
川辺さんが口を開いた。
「左からキャリアの長い順に立ってもらってるよ。」
「なるほど・・・。
ってことは、ウィリアムさんとエステルさんがこの中で1番短いんですか?」
「そうなるね。
でも、心配しないで。
この組織はね、若いベテランが売りなんだ。先生は誰にするか決めた?」
「ウィリアムさんとエステルさんでお願いします。」
「その心は?」
聞いたのは川辺さんだが、その場にいる
マスター全員の視線が俺に注目した。
集団の圧に少し気圧されつつも、
固めてある理由を述べる。
「またあんな風に至近距離で襲われてバスケができなくなるのが嫌なんです。」
「ごもっともな意見だね。
なら、2人の元で教わると良いよ。」
川辺さんに頷いて、俺はウィリアムさんと
エステルさんの元に向かって歩き出した。
手を伸ばしたら触れられそうな位置で立ち止まって2人の反応を伺うと共に、
2人の様子を観察する。
ウィリアムさんはカウボーイハットをかぶっているから目元がぱっと見わかりにくいが、背が高くて上半身ががっしりした
白人の男性だ。後は、帽子から少しはみ出ている髪の毛を見るに、黒髪だとわかる。
次にエステルさんの方に目をやると、
彼女は手入れのされた綺麗な茶髪で、
緑色の目をした白人の女の人だった。
改めてウィリアムさんとエステルさん
それぞれに
「よろしくお願いします」
と声をかけて会釈する。
ウィリアムさんは帽子の鍔を軽く下げて会釈を返し、エステルさんは手を振ってこちらに笑いかけてきた。
口を開いたのはエステルさんだった。
「まさか私たちに弟子ができるなんて。
マスターやっててよかったわ!
ねぇ、ウィリアム?」
「全くだ。」
ウィリアムさんは俺の方を見ながらエステルさんに答えた後に、しばらく考え込んでからまた口を開いた。
「今日から早速訓練に入る。
今から動きやすい服に着替えてくれ。」
「わかりました。」
次にエステルさんが声をかけてきた。
「私が更衣室に案内するね。
着替え終わるまで外で待ってるわ。」
「ありがとうございます。」
俺はエステルさんにお礼を言いながら
後をついていった。
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