第4話

あれから皆で話し合い、ひとまず、レオンとカイルは旧礼拝堂の調査に、私とセレーナでアメリア嬢の方を対応することになった。


「……まずは、彼女のことをもっと知らないと話にならないわね。」


私とセレーナはアメリア嬢の周りで起きている事件の詳細、そして彼女の交友関係を調査するべく、学園の中庭にやってきた。


「ごきげんよう、皆様。お茶の時間に失礼、伺いたいことがあるのだけど、少しお時間よろしいかしら。」


放課後のこの時間、課外活動に参加しない女生徒は迎えが来る時刻までここでお茶をして過ごしていることが多い。

あまり聞き込みをしているところを注視されたくないので、庭の端で少数でお茶を飲んでいるグループに声をかけた。


「ラ、ラヴィエナ様…!?!?セレーナ様まで…!?」

周囲からも女生徒たちの小さな悲鳴が聞こえる。

「ど、どうぞ…!!今お二人のお茶も入れさせますわ…!」


「ありがとう。それでは1杯だけいただくわ。」

白百合の君スマイルを作り、セレーナと共に用意された椅子に座る。


「皆さま、お隣のクラスのエレナ様、ルイーズ様、マリア様……でいらっしゃいますわよね。まだ直接お話しする機会がございませんでしたので、こうしてご一緒できて嬉しいですわ。」


セレーナが優しい笑みを浮かべながら口を開いた。

学年の生徒の名前をすべて覚えているのだろうか……いや、この子のことだから、全校生徒の顔と名前くらい軽々と頭に入っているに違いない。


(……我が妹ながら、本当に才女すぎるわ。)

心の中で、私は彼女に惜しみない拍手を送った。


彼女の髪は、私と同じシルバーだが、私のように波打つウェーブはなく、母譲りのすっきりとしたストレート。

瞳は私のように大きくはっきりとした印象ではなく、むしろ顔全体のパーツが整いすぎていて、まるで精巧な人形のような均整を誇っている。

いつも絶やさぬその笑みは、清楚で可憐なスズランを思わせ、人々から「スズラン姫」と呼ばれているらしい。


彼女は常に私の良きパートナーであり、足りない部分を自然に補ってくれる存在だ。

思えば、学院で私が「白百合の君」と呼ばれるイメージを保てているのも、ほとんど彼女の支えあってこそなのかもしれない。


「隣のクラスの私たちまで覚えていていただけたなんて、光栄すぎますわ…!まだ入学して3ヶ月も経っていないのに。」


「仲良し三人組でよくお見かけしていたものですから、楽しそうに何のお話をしているのかずっと気になっていたのですわ。」


「まぁ…!そんな大したことは話していないのですよ。」

「噂話とか、最近話題のスイーツの話とかですの。なんだかお恥ずかしいですわ。」


「あら、話題のスイーツのお話は大事ですわ。あとで場所を教えてくださいますか。」


「そうそう、噂といえばフローレンスのご令嬢のアメリア様のことは皆様ご存知ですか?とても可愛らしい方だとか。私可愛らしい方には目がなくて。ぜひお友達になりたいなと思っていますの。今度お声をおかけしたいと思っているのですが、悪い印象を持たれたくないので、事前にどんな方なのか知っておきたくて。」


「まぁ、アメリア様ですか?」

三人組のひとりが声を潜めて身を寄せると、残りの二人も待ってましたと言わんばかりに顔を寄せてきた。


「とても愛らしい方なんですのよ。お顔立ちも幼なげで、まるで絵本から抜け出たお人形のよう。いつも笑顔で、声も小鳥みたいに可憐で……男子生徒たちの間では“守ってあげたい子”として大人気だとか。」


「ですが――」もう一人が意味ありげに声を落とす。

「その可愛らしさをうまく使って、あちらこちらの殿方に取り入っている、とも噂されていて。中には本気になってしまった方もいるようですわ。」


「まぁ……」セレーナが口元に手を添えると三人は揃って頷いた。


「それだけならまだしも……最近はどうも妙なことが続いているんです。上から植木鉢が落ちてきたり、階段に油がこぼれていて足を滑らせたり……」


「でも、それは事故だと聞いていますわ。」と、思わず私が口を挟んでしまった。

三人は一斉にこちらを見て、声を揃える。

「そうなんですの! 植木鉢は、偶然バルコニーで話していた生徒がぶつかって落としただけ。階段の油も学食の調理係がうっかりこぼしたのだとか。」


「つまり、犯人と呼べる人はいない……?」私が確かめるように問うと、三人はまた頷いた。


「ええ。ただ……」最後の一人が小さく肩をすくめる。

「つい先日には、ハサミが飛んでアメリア様の頬を掠めたとか。偶然にしては出来すぎていて……皆、怖がっているんです。」


「えっ、ハサミ!?」セレーナが思わず声を上げると、三人は「しーっ」と一斉に唇に指を当てた。


「そうですわ。最初は軽い出来事でしたのに、だんだん危ないものに変わってきている。わたくしたちは正直、近づかない方がいいと思っていますの。セレーナ様も、ラヴィエナ様も。」


噂好きの三人は、最後に声をひそめながらも妙に得意げな顔で互いに見合わせた。

中庭の木陰には、昼下がりの陽光とともに不穏な空気が漂い始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る