屍人形1

「それにしても似合いますねー」

 カーキ色のつなぎを着た三号が隣を歩いている鳶丸に笑いかける。鳶丸はスカジャンに細身のジーンズという出で立ちで、傍から見ればどこぞの兄貴と舎弟である。

「お前もよく似合っている」

 鳶丸はくしゃくしゃと三号の髪をかき回すと笑った。

「それでどうするんですか?調べるっていっても千寿屋さんのような方を頼るんですか?」

「いや、それも限度がある。鬼も人に紛れているが……千寿屋が知らないのであれば、他の者はもっと知らないだろう。千寿屋は情報屋だからな、何かあればあいつの所に集まってくる」

「そうですか……では鬼のゲームの狩人ですか?」

 三号の言葉に鳶丸は頷いた。

「そうだな……一度会っておいたほうがいいかも知れない。狩人は水の神の使徒であるレイモンド様だ。それからミズナギ様も参加しているという話だ」

「あ!ミズナギ様って……牛丸様の持ってらした玉の……」

「そうだ。お二人がいるのであれば、鬼のゲームは訳の分からんことにはならんだろうが……お二人も知らぬことがあるかも知れん」

「そうですね。居場所はわかっているんですか?」

「それはすぐにわかる。三号、目を閉じて光の射している場所が捜してみろ」

 鳶丸の言葉どおりに三号は目を閉じた。まだ明るい気がしたので両手で目を塞ぐと遠くの場所に天から光が降りている。

「あ、見えました!あっちです」

 光の射す方角を指差し三号が目を開けた。

「そうだ。鬼はそれほど強くはないが、神というのは光を持つんだ。では会いに行こう」

 二人は大通りでタクシーを拾うと乗り込んだ。




 夜の闇のように深く静かな場所でソレは目を覚ました。もうずっと眠っているのに頭痛が酷く、耳鳴りが止まらない。目は開いているか閉じているのか、それすらわかっていなかった。随分前から自分の父親だと名乗る男が、意味不明なことを会うたびに喚き散らしている。そして夜になると此処に入れられる。

 ソレは両手を挙げてみる。かろうじて上がったがどちらもブルブル震えている。奇妙だ……昔はもっとすんなり上がったような気がしたが。

 握り締めようと指を動かしてみても震えるばかりでうまく出来ない。ぱたりと落ちた両手が胴に触れて、足も動かしてみる。しかしやはり震えるばかりで動きはしない。一体これはどういうことだろう?何か病気か?それとも?

 ソレがかすれた声を上げた時、後ろで声がした。ゆっくりと振り返ったが何もいやしなかった。ただ闇に紛れて風が吹き込み、この場所を通って音が出たんだろう。





 雨は夜になると酷くなっていた。マンションの窓を叩き、TVの音が聞こえないほどでレイモンドはニュースを確認するためにリモコンで音量を上げた。

 新しい殺人のニュースはない。流れている死体についての情報は少し前のものでソファに座っているミズナギが欠伸をした。

「お休みになりますか?」

「そうする……と言いたいが、何か来ているぞ」

 ミズナギは玄関に視線を向けて顎をしゃくる。レイモンドは玄関へ向かうとドアスコープを覗いた。誰もいない、しかし何か気配は近づいていた。

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