光のない未来に3

「相変わらず美しい術です」

 レイモンドは傘の中にミズナギを入れると優しく微笑む。

「さて、何秒持つかな」

 言葉どおり、少し離れた場所で小さな悲鳴が上がり、バタバタと何かが転がり出る。黒いフードを被った体を小さな光の獣が高速で移動し噛み付いている。

「や、やめて!やめて!」

 じたばた転がって両手足をはちゃめちゃに動かしては、二人を見つけると声を上げた。

「助けて!助けてよ!」

 足を噛み付かれて小さな悲鳴が上がり、這い回りながらミズナギたちの足元へ転がった。フードの中は女の顔だ。目の下に黒い線が引かれており、口は耳まで裂けている。

「おや……これは」

 レイモンドが声を上げるとミズナギの目が冷たく光った。

「お前、もう一人殺したな?」

 顔を上げた女が一瞬で蕩けた。頬が紅潮し舌がだらしなく垂れ下がっていく。息が白くなるほどに興奮しているのか手を伸ばし、ミズナギの髪に触れると嬉しそうに目を細めた。

「……いいなあ」

 ミズナギに見惚れる女の隙を見てレイモンドが銃を構え弾き金を引いた。しかしこめかみに向かって放たれたそれは遠くへ走っていく。レイモンドの動きを察していたのか、女は後ろへと飛びのいていた。その腕にはミズナギがいる。嬉しそうにミズナギの体に触れて、唇に吸い付いた。

 その瞬間、女のフードが外れて後頭部が膨れ上がる。ミズナギの唇に夢中になっている女の頭が爆発すると、数秒してレイモンドの放った弾丸が女の残っていたこめかみを撃ちぬいた。

 静かに崩れる女をミズナギは片手で押しのけて体を起こす。袖で唇を拭き、背中から銃を取り出すと、まだピクピク動いている頭に撃ちこんだ。

「気色悪い」

 レイモンドはミズナギにかけ寄ると体を抱き寄せる。

「申し訳ありません、私が油断をしたばかりに」

「いや……我の力も試したかったからな。大事無い。それよりも清浄を」

 ミズナギはレイモンドに口づけた。柔らかな長い髪がふわりと浮かぶと泥で汚れていた頬も綺麗に整い、体の中を水が走り抜ける。お互いの唇が離れると雨はまた少し強くなった。二人の足元では消滅する黒い残骸が雨に濡れている。

 足を地上につけたミズナギの体が揺れて、レイモンドが体をとっさに支えたが両手で制止した。

「大事無い」

「わかりました。ですが……疲れたら仰ってください」

「ああ……」

 二人は壁に立てかけていた傘を取り、ポンと差すと歩き出した。

「もう濡れてしまっていますから……無駄かも知れませんね」

 レイモンドが笑うとミズナギは振り返る、まっすぐな瞳にレイモンドは姿勢を正した。

「レイ、お前に少し頼みたいことがある」

 雨はまた強くなり二人の傘を叩きつけると、遠くの空で雷鳴が響き渡った。

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