神と僕2

 湖で遊ぶミズナギはまだ幼く、力の制御も出来ず大きな波を起こしては大きな笑い声を上げていた。名を呼ぶとミズナギが振り返る。濡れた肌は白く、薄い色の瞳が矢のようにレイモンドを射抜いた。その姿をレイモンドは今でもはっきりと覚えている。

 人で言う成人の頃にはミズナギは誰よりも美しく凛としていた。神たちも恋をするがちょっかいは出しても暴君のように振舞うことはない。

 レイモンドはミズナギに恋をしていたが、自身が使徒であることは揺るぎなく、ミズナギは仕える主だと心に刻んでいた。しかしそれはミズナギも同じであった。傍にいる僕を愛し、気にかけている。

 ある月の丸い夜。ミズナギはレイモンドに告げた。

「お前といると胸が苦しくなる、どうしてじゃ?」と。互いに同じだと解り、秘密の夜を始めた。それはお互いにとって良薬となり、レイモンドの体はたちまち大きくなり男となる。ミズナギもまた女へと成長し、体が溶け合うことで力の増幅を知った。

 水の神はそれを知り、二人を認め恋人となる。その後、他の神がレイモンドを傷つけたことに腹を立てて、ミズナギは嵐を起こす。地上では酷い飢饉が起き、多くが死んだことからミズナギは幽閉された。昔から度々起こしていたため重くとられたのだ。

 その間、ミズナギの仕業で多くの魂が流れ込んだことを知った鬼たちは騒ぎたち、幽閉されているミズナギを盗み出す。力を封印されたミズナギは小さな玉のためそれは容易だった。

 幽閉の期間が終わりを迎える頃、レイモンドはミズナギを迎えに行ったが、すでにおらず、彼はミズナギを探す旅をすることになる。その後ミズナギの玉を持っていた鬼はその玉を天海で落としてしまう。それから随分と長い間、レイモンドはミズナギを探していた。どうやら地上にいるかも知れないと知り、鬼のゲームの執行者を狩る者として名乗り出た。ミズナギは雨の神でもある。同じ力を持つレイモンドの雨に強く反応するかもしれない、そんな淡い期待でもあった。

 そしてあの夜、ついに見つけた。死体の前に立ち尽くす女の中にあるミズナギの波動を。

 ベットに横たわって眠っているミズナギの頬にかかる髪をすくい上げて、指先でそっと触れる。柔らかく暖かな感触に溜息が出た。

 やっと見つけた私の主、もう離すことはない。手を伸ばしてミズナギの体を抱き寄せるとレイモンドも眠りについた。その夜は深く、地上に降りてから安らぎを覚える眠りだった。





 地獄の南側、光が多く集まる場所は金剛石が輝きを放ち、水に濡れている。ぬらりと光って、そこに血濡れの手が多くへばりついており、上へと向かっている。それを長い棒で落としながら青緑の腕が動いていた。

「早く落ちなよ~」

 小さくぼやいて青緑の腕の持ち主は眉を下げる。ここではこうして上がってこようとする者を下へ落とす作業が行なわれている。

「三号!おーい!三号!」

 遠くで聞こえた声に、三号は振り返る。一番上まで来ていた手をこそげ落とすと大きな声で返事をした。

「はーい。いますぐ」

 三号は棒を片手に小走りに歩き出す。朱色の館に飛び込むと、そこにいた黄緑の腕の男に大きな笑顔を見せた。

「三号戻りました」

「おお!すまんな!忙しいところを」

「いいえ。どうしました?」

「……それがなあ……ゲームに失敗した連中の聞き込みを行なっていた官の報告書に、まだ未確認の情報があるらしくてな」

 黄緑の腕で頭を掻いて机に置いてあった紙を三号に手渡した。

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