恋人たちの終幕1
春から夏に切り替わる季節。雨の季節とも呼ばれる時期だ。
ベットで喧しく鳴る目覚まし時計を止めると、イツカは目を擦り体を起こす。
デジタル時計はもう十時を回っている。言うなれば昼前だ。ふと視線の端にある携帯端末のランプがチカチカ光っているのに気付いて手を伸ばした。
瞬きを繰り返しながら操作する。メッセージアプリが起動して既読のついていないメッセージが並んでいた。
「やっべ……」
メッセージは全て恋人ナツキからのものだった。履歴を辿れば、もう二時間近くは待っている様子で、始まりは怒っていたが、最新のメッセージは心配の文字で埋められていた。
何かあったのかな?大丈夫?見たら連絡ください。
その優しい言葉の上には九時半。イツカは飛び起きると急いでシャワーに飛び込んだ。準備を済ませて家を出る。待ち合わせ場所は駅近くのカフェだ。大通りに出るとタクシーを捕まえて乗り込んだ。携帯端末を取り出し、もう一度アプリを開く。メッセージを送るとすぐに返信が来た。
良かった、連絡ついて。気をつけてね。
うざい……そんな言葉が浮かんで消えてを繰り返している。近頃は鼻について、どうしようもない。待ち合わせ場所のカフェに到着すると、窓際の席にナツキはいた。本とノートを広げている。多分時間潰しに読書ノートでも作っているんだろう。
「ごめん、遅くなった」
一呼吸して声をかけると、ナツキはにっこり笑って頷いた。
「良かった……事故とかだったらって心配してた」
「悪い」
ナツキの前の席について、オーダーを取りにきたウェイトレスに軽食を注文する。
「あれ、食べてないの?」
「……うん、起きたばっかで……」
口から出た言葉にハッとして顔を上げる。ナツキは一瞬動きを止めたが、小さく「そう」とだけ言って、またノートにペンを走らせる。
ムカツクな。この反応。
運ばれてきた軽食を口に運び、目の前のナツキを盗み見る。出逢った頃とは違い随分と大人になった。美人だとは思う。知り合いに会うとよく、紹介しろよとは言われていたから。それでも仕事場に新しい女の子が入ると、どこかで比べてしまっている自分がいた。ナツキとは違うな……なんて。
「ねえ……、聞いてる?」
「ん、何?」
持っていたフォークを止めて顔を上げると、ナツキはしょうがないという顔をした。
「食べたらどうしようか?……映画の予定だったけど、今から行って……次の部が夜になるかなあ」
「ああ……どっちでもいいよ」
ぶっきら棒な言葉にナツキの動きが止まる。彼女は小さく息を吐いてから微笑んだ。
「……そっか。じゃあ、見たいって言ってたショップにでも行ってみる?」
ナツキはテーブルの上を片づけ、携帯端末を取り出した。多分地図の確認だろうが、イツカは溜息をついた。
「……ああ、いいよ。お前の行きたいとこでさ」
皿の上を綺麗にしてスープの入ったマグを空にすると、お冷のグラスに手を伸ばした。くっと飲み干して喉から胸にかけて冷たい水が流れ込む。ナツキは黙って携帯端末をいじっている。
うざ……と飲み込んでイツカは切り出した。
「なあ、ナツキ」
「何?」
「俺らさ……もうよくない?」
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