蠢く身体3

 そんなものかな……と思いながら、怒ってくれていたイツカに少し嬉しさもある。大喧嘩してまだ謝れてもいないのに、引き受けてくれたのだから。

「では……ナツキ様」

 レイモンドはナツキの手に触れる。

「どうなさいますか?私に権限をお与えになりますか?」

 ミズナギ様を体から出す……か。

「……一つ聞きたいんですけど」

「何でしょうか?」

「どうやって出すんですか?魔法みたいな呪文でパパッと?」

 笑って両手を空中で遊ばせると、レイモンドは頭を振る。

「いいえ。物理的に私の手であなたを切ります」

 レイモンドは胸元から小さなポケットナイフを取り出した。銀製で美しい装飾が施され、切っ先に向かって鋭く光っている。

「これであなたを切ります」

 ヒッとナツキが声を上げると、レイモンドは頷いた。

「言葉だけで聞くと恐ろしいかも知れませんが、肉体にはオーラが存在します。それを切り、あなたの中にあるミズナギ様を取り出します」

「オーラ?なんかスピリチュアルな感じ?」

「そうですね。アレとは少し違うのですが、分かりにくいので同じだと思ってください。皮は切れてしまいますが、切った後は必ず綺麗に元に戻ります」

「ちなみに……どこを切るの?」

 ごくりと唾を飲んだナツキの額にレイモンドは人差し指を当てた。

「ここです。ここからまっすぐに切り首元まで進みます。そこから少し剥ぎ、私の手で取り出します」

 想像してナツキの顔が青くなる。

「……怖いなあ。もし……切らなくて……ミズナギ様が自分で出てきた場合はどんな風になるの?」

「お聞きになりますか?」

「……参考程度に」

 レイモンドは声には出さずナツキの目の前で何かを引き裂くように両手を広げた。それを見てナツキは顔を背ける。

「……やっぱりいいです。言わなくて」

 ナツキの様子にレイモンドは声を出して笑った。

「お任せくだされば悪いようにはいたしません。お約束いたします」

 両手を大きな手で包まれてナツキは頷いた。

「分かりました。お願いします……けど明日でもいいですか?」

「かまいませんが……まだ何か?」

 ナツキは笑うと冷蔵庫を指差した。

「実は……冷蔵庫に取って置きのケーキが入ってて、まだ食べてないから。ミズナギ様を出しちゃったら、当分動けないんですよね?腐っちゃったら困るし」

「そうですか。ではお茶をお入れしましょう」

 するっと立ち上がりレイモンドはキッチンへ向かう。ナツキは彼の背中を見ながら頷くと決心したように立ち上がった。

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