蠢く身体2
慌てていたのか珍しく声が跳ねていた。ナツキはレイモンドの指示に従いスピーカーにする。
「もしもし、私、ナツキ。こんばんは」
挨拶に一瞬息を飲んだのが聞こえた。
「こんばんは。どうしたの?」
少しぶっきら棒な声にナツキは笑う。
「ごめんね、遅くに。ちょっと相談したいことがあって……」
「何?」
「うん。実は少しの間留守にするかも知れなくて……」
ちらりとレイモンドを見ると彼はにっこり笑って頷いた。
「それで……その時はお願いできないかな~って」
要領を得ない言葉にイツカが苛立った声を出した。
「おい、意味がわからん。どういうことだ?留守にするかもって……お前がどこかへ行くのはいいとして、どれくらい留守にするんだよ」
この声は怒っている……意味が分からないのはナツキも同じだ。
「ええと……」
言葉を探しているとレイモンドが小さな声で耳打ちした。
「雨が止むまで」
マイクが拾ったのか、スピーカーからイツカの怒鳴り声が飛んでくる。
「ナツキ!お前誰といるんだ!つうか男か!まさか、なんかされてんじゃねえだろうな!」
「ちが……ちょっ」
言い終わる前にナツキの口をレイモンドは手で抑えた。
「どうも……こんばんは。私はレイモンドです。イツカさん、お話をしてもよろしいでしょうか?」
低く響く声でレイモンドが話すとしんと静まりかえった。
「ああ……あんた何でナツキと一緒にいる?どういう関係だ?」
明らかに不機嫌な声にレイモンドは微笑む。
「ナツキ様には少し協力をして頂いております。イツカさんにもご協力をお願いしたく、こうしてお話を」
「なんだよ、協力って……」
「はい。これからナツキ様にはして頂かなくてはいけない事がございます。その後、ナツキ様は動けなくなりますので、イツカさんに護衛をお願いしたく」
スピーカーから音が消えると沈黙が続いている。レイモンドはナツキの口から手を外した。
「お分かり頂けなかったのかも知れません。ナツキ様、お役に立てず申し訳ありません」
レイモンドには悪いが、そもそもこんな訳の分からない話を急に信じろというほうがおかしい。
「気にしないで……」そう言いかけた時、スピーカーからイツカの声がした。
「分かった。何時そっちに行けばいい?」
ナツキがギョッとすると、レイモンドは優しい声で言う。
「では、ナツキ様からのメッセージをお待ちください」
「……分かった。待ってる」
電話が切れて、液晶の光が落ちた。ナツキは目を丸くして呟く。
「……あれで……分かったの……かな」
「どうでしょう。しかし、恋人がピンチとなりますと普通は何でもうまく収まるものですよ」
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