七月に零3

「そして私、レイモンドは水の神の使徒として、執行者を狩に来ています。その間、雨は止みません。また私の力も使い雨を降らせます」

 ナツキは、ん?と首を傾げる。

「え?じゃあ雨が降らなければいいんじゃないの?」

「その通りですが、執行者を狩ることを辞めることはありません。鬼のゲームが終わるまでは」

「そんな……勝手な」

「はい、こちらの都合です。しかし決して自由を侵すことはありません。ですので、執行者が永遠と人を殺めなければ、ただ追うのみで狩は行ないません」

「……待って、じゃあ……執行者が誰か殺さないと……鬼のゲームは終わらないってこと?」

「はい、そうなります……が執行者は必ずゲームを始めます」

「……そんなのおかしい!誰か死ななくちゃいけないなんて!」

「けれど、それが定めなのです。現在、執行者たちはゲームを始めたため、私は狩を実施しています。執行者は十人、そのうち三人は仕留めました。ただ私の体も疲労しているため、ミズナギ様をお返し頂きたい」

 納得の出来ない話にナツキは黙り込む。しかし一番引っかっている事がある。

「……あの」

「なんでしょうか?」

「ミズナギ様って何なの?」

 レイモンドは頷くと膝をついた。

「あなたの中にいるミズナギ様は……、私はあの方の僕なのです」

 し、僕?ナツキはとりあえず飲み込んで話を続ける。

「ああ……それはそうとして……様ってつくから神様とか?」

「はい。水の神の子となります。少し奔放な方で、力が強い分……」

 彼はくすりと笑うと口元を抑えた。

「時々、地上で嵐になりますね。酷い飢饉が起きたりしますが……あれをミズナギ様が起こしておりました。封印されてからは長らくそのようなことはありませんが……」

「え?それって……封印しておいたほうがいいんじゃ……」

「どうでしょうか。いずれ、あなたの皮を破って出てくるでしょうから、私に任せて頂ければ、あなたを残すことはお約束できますよ」

 皮を破って?ナツキは顔を青くしながら言葉を探す。

「待って……なにそれ。さっきも聞いたけどアニメとかで見る転生とかじゃないの?それだったら私なんだから問題ないと思うけど」

「いいえ、違います。ミズナギ様は転生なさることはありません。偶然あなたの中に落ちて、寄生している形です。力が漏れ出ていることを考えると、力が半分近く戻った時に、宿主の体は壊れてしまうでしょう」

「じゃ、じゃあ!私からミズナギ様を取り除いたら私はどうなるの?」

「今のあなたの状態から考えて、ミズナギ様を出したとしても皮は残ります。その後は私の水の力で元に戻すことは出来ましょう。鬼のゲームが終わる頃、雨が上がる頃にはあなたは普通の人としてまた戻れます」

「それって約束できる?」

 ナツキの真剣な言葉にレイモンドは深く頷く。

「はい、神の使徒ですから、お約束いたします」

 まるでモンスター映画の宿主が腹から食い破られる姿を想像してナツキは目を瞑る。

 選択肢がない……か。

「少し時間をください」

 レイモンドはまた立ち上がると礼儀正しく頭を下げた。

「かしこまりました」

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