七月に零1

 ピチャンピチャンと規則正しい音がする。雨どいから水が落ちている?ああ、まだ雨が降っているのだと気付いて瞼を開いた。いつもと同じ光景に、ゆっくりと体を起こすも

 ゴムが弾けるような痛みに視線を走らせる。腕には包帯、足も傷だらけで包帯以外何も着けていないことに気付き、赤面して傍にあった毛布を手繰り寄せた。

 私、どうやって帰ってきたの?昨日のアレは夢ではなかった?それに誰が手当てを?

 寝室のドアは少し開いていた。見渡す限り、確かにここは自分の部屋で全て見覚えある。ベットの端にある三十センチくらいのぬいぐるみは昔、友達から誕生日に貰った物だ。

 静かにベットから下りると、椅子にかけてあったシャツに手を伸ばす。見覚えのないものだが膝まで隠れるほどだから男性物だろうか。寝室を出れば服は確保できるし、今はないよりましだ。

 ドアの隙間から覗くと廊下は灯りがついている。静かに移動し、リビングのドアが少し開いているのを確認した。

 誰かいる、もしかして昨日のお爺さん?

 リビングからは人の声がしていた。数秒してTVだと気付き、そっと隙間から中を覗く。

 ニュースが流れている。どうやら殺人事件があったのか現場に駆けつけたレポーターが話している。TVの前のソファには白髪の後頭部が見えた。雰囲気的にはあの時の老人に見える。

 あの人だよね……?

 ナツキは覚悟を決めてドアを開けた。小さく鳴った音に男は振り返る。

 明るい場所で見た男は老人とは思えないほど若かった。確かに良く似ているが四、五十ほどの年齢に見える。彼は立ち上がるとナツキの傍に歩いてきた。

「大丈夫ですか?痛みは?」

 優しい声に薄い色の瞳がナツキを捉えて、一瞬吸い込まれそうな気がした。

「……いいえ。あの……どなたですか?」

 男は優しく微笑むとナツキの手を取りソファに座らせた。少し離れた場所できちんと立ち軽く頭を下げる。

「初めまして、ナツキ様。レイモンドです」

 すっとレイモンドが顔を上げると、まっすぐな瞳が飛んできた。ドキリとして目を逸らし、TVを見る。丁度レポーターは死体があった場所に立っていた。地下鉄の階段だ。レポーターの膝まである水がちゃぷちゃぷと音を立てて揺れている。

「あ……」

 あの場所だとすぐに分かった。あそこでサラリーマンが殺されたのだ。二、三言葉を交わしただけだったが、顔も声も覚えている。

「やっぱり……殺されたんだ」

 ナツキの呟きに傍に立っているレイモンドは頷く。

「はい、これは予定調和です」

「え?」

 意味不明な言葉にナツキは顔を上げた。瞬きを繰り返すと首を傾げる。

「今……なんて?」

 レイモンドはソファの背もたれに手をかけると「失礼」と小さく断った。ナツキの頬に触れて首を伝い、シャツのボタンに手をかける。胸元を二つ外して襟元から肩に手を滑らせると服をずらした。丁度包帯の巻かれた腕が見えて、ナツキは小さな悲鳴を上げる。

「何!?」

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