第13話

雷光の剣舞

初仕事の成功を祝う食事を終え、純とリーザは心地よい夜風に吹かれながら宿屋への帰路についていた。街は静まり返り、石畳の道を魔法灯の淡い光が照らしている。

「いやー、やっぱりちゃんとした店で食う飯はうまいっすね」

「はい。純様のおかげで、私も久々に温かい食事をいただけました」

和やかな会話が途切れたのは、二人が人通りのない路地裏に差し掛かった時だった。道の先と、そして背後から、カシャリカシャリと金属が擦れる音と共に、十数名の武装した兵士たちが姿を現し、二人の退路を完全に塞いだ。

兵士たちの奥から、昼間の小物貴族ダーナが、顔を憎悪に歪ませながらぬっと姿を現す。

「ふはははは!さっきはよくもこの私に恥をかかせてくれたな、平民ども!」

「やれやれ。懲りない方ですね」

リーザは、やれやれとため息をついた。その顔に、焦りの色は一切ない。むしろ、面倒な虫を払うかのようなうんざりとした色を浮かべていた。

「純様、ここは少々お待ちを。すぐに終わらせます」

リーザはゆっくりと腰の長剣を抜く。すると、その美しい刃に、淡い光の膜――闘気が宿り、刀身が力強く脈動し始めた。それだけではない。パチパチと音を立てて、闘気の上を青白い雷の魔力が走り始める。剣先から放たれる雷光が、夜の闇を鋭く切り裂いた。

「さて、かかってきなさい。まとめて相手をしましょう」

闘気と雷魔法、二つの力を同時に剣に付与する、神業の魔導剣術。その圧倒的なプレッシャーに、兵士たちが思わず後ずさる。

「な、何を怯えている!殺れ!殺してしまえ!」

ダーナが金切り声を上げると、私兵たちは覚悟を決めて一斉に襲いかかってきた。

四方八方から迫る剣戟。だが、リーザは静かに目を閉じ、そして、一気に開いた。

「雷光斬(らいこうざん)!」

次の瞬間、リーザの姿が閃光と共に掻き消えた。

夜道に、一筋の雷が迸る。それは、まるで優雅な舞踏のようだった。リーザは襲いかかる兵士たちの懐に瞬時に飛び込み、雷を纏った剣を振るう。ただし、その刃は常に峰を返し、急所を的確に外していた。

バチッ!バチィッ!

肉を斬る音ではなく、雷撃が鎧を打つ甲高い音と、感電した兵士たちが次々と意識を失って倒れる音だけが響く。

ほんの数秒。リーザが元の位置に戻り、静かに剣を鞘に収めた時には、全ての私兵が地面に倒れ伏していた。誰一人として命を落とすことなく、しかし完全に無力化されていた。

「ひ、ヒィィィィィィィ!」

目の前の光景が信じられず、ダーナは恐怖に引きつった悲鳴を上げた。彼はあまりの恐怖に、履いていた高価な靴が脱げるのも構わず、文字通り裸足で闇の中へと逃げ出していった。

静寂が戻った路地裏で、純は腕を組みながら感心したように呟いた。

「リーザさん、やっぱり強いな。もしかして、俺より全然強い?」

「……それほどでも、ありません」

主からの素直な賞賛に、リーザは雷光の残滓が宿る顔をわずかに赤らめ、そっぽを向いた。

二人は、気絶した兵士たちを道の脇に丁寧に転がすと、何事もなかったかのように再び宿への道を歩き出す。

純の二人目の仲間(従業員)が、ただの美人剣士ではなく、国家騎士団長クラス、あるいはそれ以上の実力者であることを、純はようやく実感し始めていた。

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異世界転生×ユニークスキル トラック野郎で無双する!? 月神世一 @Tsukigami555

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