第11話

天空の王者と10トンの鉄槌

もはや逃げ場はない。鏡山 純は、キラキラとした期待の眼差しを向けてくる犬耳族の村人たちに背中を押される形で、グリフィンが巣食うという村の御神木へと向かっていた。

「勇者様がんばれー!」

「私たちの村を、どうかお救いください!」

純の背中に、村人たちの切実な声援が突き刺さる。隣を歩くリーザは、自分の手柄のように胸を張り、英雄の供をする忠実な騎士然としていた。

「さあ、純様!今こそ、その御力、万民にお示しするのです!」

「……俺、一人でやるのかよ!?」

純のツッコミも、リーザの燃え上がる忠誠心の前では効果がない。

やがて一行は、村で一番大きな広場にそびえ立つ、巨大な樫の木の前に到着した。見上げると、地上から数十メートルはあろうかという太い枝の上に、巨大な鳥の巣が作られている。そして、その巣の主がいた。

黄金の鷲の頭に、ライオンの屈強な胴体。鋭い鉤爪が枝に食い込み、カミソリのような嘴を持つ。天空の王者、グリフィン。その威圧的な姿に、村人たちが息をのむ。

グリフィンは、地上に集まった者たちを睥睨(へいげい)すると、甲高い威嚇の声を上げた。

「クカカカカカァァァァッ!!」

空気を震わせる咆哮。リーザは咄嗟に剣の柄に手をかける。

しかし、純は面倒くさそうに耳をほじりながら、空の王者を見上げた。

「クカカカカじゃねぇんだよ、うるせぇな。えぇっと……【トラック召喚】!!」

純が、グリフィンの真上の空間を睨んでスキルを発動させた。

その瞬間、何もないはずの空中に、巨大な鉄の塊――10tトラックが出現した。

「ギィ!?」

グリフィンが、自らの頭上に突如として現れた規格外の存在に気づき、驚きの声を上げる。だが、時すでに遅し。重力に従って、10トンの鉄槌が、天空の王者の上へと、無慈悲に落下した。

ゴッッッッッッッッシャアアアアアアッッ!!!!

凄まじい破壊音と共に、御神木の太い枝がへし折れ、砂塵が舞い上がる。

やがて煙が晴れた後、そこに広がっていたのは……へし折れた枝に乗り上げるような形で鎮座するトラックと、その下で完全に圧し潰され、無残な肉塊と化したグリフィンの姿だった。

「…………」

「…………」

唖然。

村人たちも、リーザも、目の前で起こったことが理解できず、ただ口をぽかんと開けて立ち尽くす。

伝説の魔獣との死闘を覚悟していた彼らの前で、戦いは、わずか3秒で終わった。あまりにも一方的に。あまりにも理不尽に。

その静寂を破ったのは、リーザの歓喜の声だった。

「す、素晴らしい!天を舞う敵に対し、その上を取って一撃で仕留めるとは!流石は純様です!」

「「「おおおおおっ!!」」」

リーザの完璧な解説(?)で我に返った村人たちから、爆発的な歓声が上がる。ワンダフ村長は、涙を流しながら叫んだ。

「勇者様、万歳!我らの村の救世主だ!」

大歓声に包まれる中、純は「やれやれ」と肩をすくめると、パンパンと手を叩いた。

「じゃ、せっかくなんで、このグリフィンを皆で食べましょう!結構いい肉してそうだし!」

「はい、純様!喜んでお手伝いします!」

リーザが目を輝かせて駆け寄る。

かくして、その日の夜、ダフールの村では盛大な宴が開かれた。香ばしく焼かれたグリフィン肉のバーベキューを囲み、村人たちは歌い、踊り、勇者様の名前を讃える。

純は、山盛りのグリフィン肉(鶏肉より歯ごたえがあり、濃厚な味わいだった)を頬張りながら、まあ、たまにはこういうのも悪くないか、と一人ごちるのであった。

こうして、純の伝説に「空の王者を一撃で地に落とし、その肉を村人に振る舞った」という、新たな1ページが(本人の意思とは関係なく)書き加えられたのである。

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