夏休みの宿題をやるかどうかで人生が決まる

八月三十一日に泣きながら宿題をやっていたあなたへ

　人生は、小学生の頃の夏休みの宿題をやるか、やらないかで決まる。

　何を大げさな、という人もいるかも知れないが、私は夏休みの宿題は大きな人生の分岐点であると思う。

　お察しの通り、計画をしっかりと立てて七月中に夏休みの宿題を終わらせる者は社会に適応する者となり、八月三十一日に泣きながら徹夜をして宿題をなんとか間に合わせようとする者は社会不適合者となる。もちろん私は後者であった。私は「日記をでっち上げるセミプロ」として格闘していたのである。天気や気温など覚えているはずもなく、すべて「不明」と記入した。せめて「晴れ」でいいではないかと思われるかもしれないが、当時の私は「不明」と書いたほうが「記録は甘いが誠実」と評価されると信じていた。完全なる愚か者であった。その結果として、教師たちには「明らかにこいつは日記をでっち上げている馬鹿者だ」と評価されたのであった。

　生き物の観察日記も同様である。カブトムシの記録を五日分まとめて「本日も元気。餌を食べた。よく動く。」と繰り返し書くだけだった。これでは観察記録ではなく写経である。そして写経をするのであれば、般若心経でも書き写していたほうがまだご利益があったかもしれない。読書感想文に至っては、タイトルとあらすじだけを見て「主人公の奮闘する姿を通して、努力の大切さと友情の尊さを学びました」と書き、堂々と提出した。おそらく、当時全国の小学生の大半が同じことを書いていたのではないかと推測するが、私自身は本当に友情も努力も学ばないまま大人になった。

　宿題を最後までやらなかった人間は大人になっても高確率で社会不適合者となる。締切を守れない、計画を立てられない、自己管理ができない、現実逃避する──すべて私の欠点として履歴書にそのまま記載できる特徴である。いや、そもそも履歴書自体が空白であるかもしれない。一方、七月中に宿題を終わらせていた者は、いまや優良企業に勤めて高給取りになっていて、年収は一千万円を優に超えていることだろう。私が八月三十一日に泣き崩れていた頃、彼らは中学受験のための論理パズルを解いていた。私が学生時代、SNSで変な画像を保存していた頃、彼らはインターンに参加し、人脈を作り、誇らしげな顔をしながら留学していた。これらの差は結局のところ、夏休みの宿題やるか、やらないかで決まるのである。

　しかし近年は便利な時代になった。今やChatGPTが感想文も観察日記もすべて代筆してくれる。もし小学生の頃にこれが存在していれば、私は「灘→東大→Google」のような人生を歩んでいた可能性がある。可能性の話なので、これは嘘ではない。

　そして今や私は「私も他人もChatGPTでよいのではないか」と考えるようになった。宿題も、人生も、仕事もAIに任せればよい。私は何もせず、「履歴書の空白欄」で勝負する時代が来るのではないか。かつて政治哲学者のロックは「tabula rasa——人間とは、生まれた時点では何も書かれていない白紙のような状態であり、どう成長するのかは何を経験するか次第だ」と述べたそうだ。つまり履歴書に白紙部分の多い私はまだまだポテンシャルを秘めていると言えるだろう。冗談だ。当たり前のことだが、三十路を過ぎた男の履歴書における空白が表すのはポテンシャルではなく、何もしてこなかったという結果のみである。

　夏休みの宿題を怠けてやらなかったツケを、今も払い続けている気がする。だが、その失敗をこうして笑い話に変えられるうちは、社会不適合者としてはまだ上等であるのかもしれない。