04:惑星の滅び

 惑星『玄遥パルミスイ』は滅びた。検索の結果、その地上にも地殻部にも既に植物からアミノ酸を含めたすべての生命がない。これは近年宇宙に跋扈する大規模資源テロリストが惑星の重要資源を大量に盗んだためだ。

 今回は、海水の約七割が短時間のうちに盗み出された。壊滅的な津波と地震が起こり、生物の大量死による食物連鎖の破壊は生態系の破壊や酸素量の急激な現象を引き起こす。惑星の熱循環が失われ地表は灼熱と極寒を反復し、宇宙へ脱出する科学レベルになかった生存者たちは洞窟や地下の空間に逃れた。そしてより過酷な環境となった危険な地上に、食糧確保を兼ねた祈祷に出ていたと考えられる。

 異変を感知して近傍宙域から急行した亜光速宇宙船『玉渾クィンメリヤ』はサンプル採集用探査機を転用した救助船で地上から数名を拾い上げ、母船の検疫ユニットに収容。続く別の救助船で地下空間の人々も収容しようとしたが、寸前に大地震が起こり崩落、救助が不可能になった。大規模な火山噴火が同時多発し、瞬く間に生体反応がすべて失われ、惑星上の他の地域も探査したが生体反応なし。玉渾クィンメリヤが出会ったのがこの惑星最後の住民集団だったのだ。

 救助した者も既に弱っており次々と死に、生きて検疫ユニットを出たのは神子みこ様と呼ばれていた少女のみだった。銀髪に、左右それぞれ薄さの違う琥珀色の瞳。首筋に線状の入れ墨。祈祷などを行うシャーマンであったと考えられる。

 生体自動翻訳を使って呼びかけた船員クルーに対し、神子はトーウと名乗った。

 そして、様子を見に来た船長クムに飛びついて泣き出したのである。


「――というわけだ。気の毒だが玄遥パルミスイはその恒星系ごと殺された。宇宙難民法があるから君はきちんと保護される。だが、移民局に行く前に寄り道させてくれ。俺達は今、君の星から海水を盗んだクズのテロリストどもを追跡してる。奴らを見たらなるべく記録を取って宙域開発保安軍アウターフォースに提出するよう義務付けられてるんだ。……翻訳、うまくいってるか?」

 トーウはこくりと頷く。船長のクムは、トーウが絶対にそばを離れようとしないのでついに航宙甲板フライトデッキに席を作ってやる羽目になっていた。

「何で俺が気に入っちまったんだろうな」

『わかりません。でも、会ったら感じたのです。あなたは私の特別な人。いつか会いたいとずっと願っていた人です』

 船員クルーたちが喜んではやし立てる。この時代、異星人とのロマンスも珍しくはないし、船員クルーたち自身も出身星は様々だった。そして彼らの船長ボスは独り身なのである。

「ともかく」

と船長クムはため息をついた。

宙域開発保安軍アウターフォースからは破壊許可も出てるんだが、あの手の船はたいがい軍用のマルチシールドを持ってるから生け捕りも破壊も難しい。こっちは自衛程度の武装しかない民間輸送船だからな」

 追跡は船内時間で一昼夜続いていた。燃料はまだ母星に戻るだけの十分な余裕があるが、いずれ限界は来る。資源テロリストたちの違法改造船は航続距離と速度を過剰に重視した構造をしており、認可外エンジンで爆走している。

 航宙甲板フライトデッキの多面モニタを前に、クムはトーウに請われるまま状況の説明をしていた。原子炉も持たない文明レベルの星から来た者には情報量が多すぎはしないかと思ったものの、トーウは取り乱すこともなく話を聞き、それなりに理解しているようである。

『速くて小さい船。私たちの海の水は、あの船に積まれていないということですか』

「そうだ。奴らは次元干渉能力者オムニポーターという異能者を連れている。君らの星の海水は氷に変えられ、間隙宇宙ギャップバースに送られているはず。必要な間隙宇宙ギャップバースから取り出すらしい。便利な輸送路扱いだな。他に次元干渉能力者オムニポーターは一人も発見されていないから、テロリスト共の専売特許になってしまってる」

『このまま追いますか?』

「追えるところまではな。軍も急行してるが、三日の距離がある。恐らく奴らはその間に俺達をくだろうが、軍になるべく多く正確なデータを渡したい。……あいつらは金のために無数の生命を皆殺しにしてきた。討伐の役に立つことなら喜んでやる」

 トーウは琥珀色の目をしっかり開いてモニタ群を見つめ続けている。その顔は、物珍しさに目をみはったり呆然としているのとは全く違う。

 何かを探している? 何かを考えている? クムは不思議な感覚を覚える。どこか高貴なこの眼差しを、いつか見たような気がする。

宇宙バース群に対し、神仙イモータルは、魂だけを旅させることができます。たとえば人間を昇仙アセンションさせたり転生させたりするようにです』

 自動翻訳の誤りだろうか。クムは改めてトーウの顔を見た。トーウはずっとモニタを見ている。

仙界レルムそのものが間隙宇宙ギャップバースの一種です。宇宙バース間で物体や生体を移動できる神仙イモータルは、次元干渉能力者オムニポーターといえます。ただの物質を間隙宇宙ギャップバース経由で移動させるのに比べて、魂魄の魂のみを分離して動かすので、もっと難しいことをします。魂も動かせるのは神仙イモータルだけ』

「トーウ? 何の話だ?」

『あの船に次元干渉能力者オムニポーターなる者がいるのなら、何故、盗品と一緒に自分たちの船を間隙宇宙ギャップバースに送って逃げないのですか?』

 それは。

 確かに軍でもいぶかしんでいる部分ではある。この次元干渉能力者オムニポーターを含むテロリスト集団の船自体が間隙宇宙ギャップバースに入ったという痕跡は一度もないのだ。

 つまり?

『――あの船に乗る次元干渉能力者オムニポーターの力は神仙イモータルに遠く及びません。多分、自分たちの船や他の船を間隙宇宙ギャップバースに移すことができません。人が乗っているから。また、限定的な力であれば小惑星などを武器代わりにすることもできそうなのに、使いこなせてもいない。盗むだけの素人です。でも、さっきやってみましたが、私もあの船を直接は動かせないです。何か次元干渉上の防御場を設置しているみたい』

 眩暈めまいがしそうだった。だが今更宇宙酔いではない。さっきやってみましたが? 何を? クムは混乱する。

『……でも、やりようはあります。私、あの船を破壊していいですか?』

「君にそんなことができるのか」

『ええ。だって、。でも、そのために知りたいことがあります』

 ぞっとする。トーウの琥珀色の瞳は優しい色をしているのに血潮を思わせ、その言葉は徐々に重みと威厳を増していく。これはまるで、物語に登場する大昔の女王のよう。

『私の住んでいた太陽系は完全に生命が滅び、二度と新たな生命が発生しないでしょうか』

「現在の観測結果ではそうだ。君のいた玄遥パルミスイだけが生命存在可能ハビタブルで、他の星はそもそも生命の兆候はなかった。過去の痕跡があったとしても、各惑星の質量、組成、自転公転速度、恒星系が辿る道のりを考えれば可能性はゼロだ。短時間ではあるが十分に厳密な検証をした」

『わかりました。では、私のいた太陽系の全質量を教えてください』

「……ああ」

 クムは船員クルーに合図し数字を出すよう指示する。

『それから、微弱重力検知と重力レンズ効果検知のリアルタイムデータを見たいです。でも、無ければ無いで、どうにかします』

 再びぞっとした。吐きそうな恐怖だ。

 だって、それはおかしい。それはここまでの会話の中でだ。トーウの星には無い知識群のはず。

「……君は何を考えてる? いや、君は誰で、何を知ってるんだ?」

 するとトーウは真っ直ぐにクムを見て答える。

『私はトーウ。私は。私は、あの船が暗闇で天体重力推進スイングバイするのを待ちます』




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