残念ながら……あなたの『番』は埋葬されました。


「それは誰だっ!? 俺の番はどこにいるっ!? 言えっ!?」


 怖い顔をして詰め寄ろうとする彼を、警備員さん達が押し留めます。


「残念ながら……あなたの『番』は埋葬されました」

「え……? は? な、なにを言っているっ!? 俺の番が死んだというのかっ!?」

「残念ながら。あの日より数日後に、あなたの『番』は埋葬されました」

「どこだっ!? どこの墓地にっ!?」

「申し訳ありませんが、プライベートなことなのでお教えでき兼ねます。現状、『番』だと主張しているのはあなた一人ですし」

「た、頼むっ!? この通りだ、教えてくれっ!? せめて、会うことすら叶わなかった番の墓参りをさせてほしいっ!? お願いだっ!?」


 ガバっと、いきなり彼がぬか着いて頼みました。


「埋葬場所を教えることはできませんが……これをどうぞ。あなたの『番』の灰です」


 と、わたしは彼に灰の入った小瓶を差し出しました。


「あ、ああ……すまない、ありがとう……ありがとう」


 そうして彼は、涙を流しながらとても大事そうに小瓶を抱えて帰って行きました。


「・・・で、どういうことなの?」


 彼が意気消沈と帰った後、即行で先生のお部屋へ拉致されたわたしは、ソファーでガッチリホールドされながら先生に詰め寄られています。


 相変わらず、先生はお綺麗です。ええ、大層不機嫌なお顔をされていても、艶やかな黒髪と黒に見える程に深い蒼の瞳はすこぶる麗しい。


「そうですね。実験は成功。『番関係』の解消は可能だということですね」

「……あなたが、こんなに窶れていることも無関係ではないわよね? 言いなさい。番関係を解消する、相応の代償・・を」


 険しいお顔が、嘘は赦さないと言外にわたしを見据えます。


 まあ、別に嘘を吐くつもりは毛頭ないのですが。でも、きっと怒られてしまう……のでしょうね。先生は、昔からわたしに対して過保護ですし。


「まず、『番』とはなにを目的とした習性なのかを考えました」

「繁殖目的なんじゃないの? ほら、短命種がより良い子孫を残すってやつ?」

「はい。わたしもそう思ったので、では片方が繁殖ができない状態になれば、相手へ対する『番』だという認識が失われるのでは? と、考えました」

「成る程ね……って、ちょっと待ってっ!? 繁殖ができない状態ってなにっ!? あなた、自分の身体に一体なにをしたのっ!?」


 バッと、先生の手がわたしの両頬を掴み、顔を覗き込みます。


「ちょっと子宮摘出手術を受けてみました」


 『番関係』解消実験だと説明したら、快く引き受けてくれた外科医がいたのです。


「はああああああっ!? ちょっ、本当になにしてるのよっ!? あなた別に病気でもなんでもなかったじゃないっ!? そりゃ、ちょっとばかり不摂生して、あんまり健康優良児とは言えなかったかもしれないけどっ! でも、だからって、普通に子供を産むのに支障ない身体だったわよねっ!? なんでそんなことしたのっ!! っていうか、待って。もしかして、具合悪そうというか、窶れてるのも手術したからっ? まだ傷口治ってないっ!?」

「一応、歩けるくらいには回復しました」


 まだ傷口が痛みますが。


「ヤだっ!! それって歩けないくらい弱ってたってことじゃないのっ!? ああ、大きな声で怒鳴ってごめんなさい……ど、どうしましょう! 寝るっ!?」


 怒ったり、心配したりおろおろと目まぐるしく変わる先生の表情。


「どこか痛いところは? 薬はあるのかしら? ちゃんと飲んでる?」

「今は大丈夫なので落ち着いてください。あと二時間程したら、服薬時間になりますが」

「わかったわ……でも、番がそんなに嫌だったら言ってくれればよかったのに。あなたが自分の身体を痛め付けてでも番を解消するくらいなら、あの獣の方をどうにかしたのに」


 しょんぼりと、泣きそうな顔で先生が言いました。


「いえ、自分で自分を痛め付けた……という解釈もある意味間違ってはいませんが。これは実験の一環です。『番』を自称する相手が本物であることなど、珍しいことなので。『番関係』の解消実験を自分でできるなど、なかなか無いことなので。やってみようかな? と思いまして。まあ、一応わたしも生物学上は女なので、子を産む機能は備わっていましたが。使用……というか、妊娠・出産をする予定はしておりませんでしたから。この機会に、試してみようかと思った次第です」

「ちょっと待って? というか色々待ってっ!? 短命種の女の子って、好きな人と結婚して、相手の子供を産む……的なことに憧れるものじゃないのっ!?」

「先生。それはかなり偏見が入っていると思います。別に子供が欲しくない女性もいると思いますよ? わたしは、結婚自体をするつもりもありませんし。ましてや、子供を産むなど考えたこともありません」

「……どうして、って聞いてもいいのかしら?」


 躊躇いがちな質問。


「ええ。単純に、こんなわたしの子供として生まれて来る子が可哀想だから、です。わたしは、恋愛感情というものが理解できません。というより、わたしは……おそらくは、女としての自意識よりも研究者なのだと思います」


 今回、『番』を自称する獣人男性が現れ……第一に思ったのが、「ああ、長年考えていた実験・・ができる」だったのですから。


「さすがに、『番関係』解消の実験の為に子宮摘出を快諾してくれる女性はあまりいないでしょうから。『番』だと自称する獣人男性に、あのまま拉致監禁されるのも嫌でしたし。自分が丁度いい検体になると思ったのです」

「……はぁ、あなたって子は全くもう……」


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