第3.5話 三通の手紙


※この話は第3話と第4話の間に位置する番外編です。

ルミナが受け取った三通の手紙と、王都の人々の反応を描いています。

本編の理解を深めたい方にお読みいただければと思います。


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 使者が去った後、ルミナは村の宿で三通の手紙を受け取った。

 それぞれ異なる封蠟が押されている。


 月明かりの下、手紙を見つめながら溜息をついた。

(中途半端に報告しなきゃよかった…)


 三日前、神託を受けた瞬間、ルミナは慌てて王都を出発した。

 教会には簡潔な報告書を、そして友人でもある騎士団長レオニードと幼馴染のセリアには短い手紙を急いで書いた。


 あまりにも急いでいたので、詳細を伝えることができなかった。

「王は二人」「ビジョンで鍛冶場が見えた」「この方向にいる」 それくらいしか書けなかった。


 最初の手紙を開く。


【教会本部より】

 聖女ルミナ・フェンリース殿

 緊急にて王都への帰還を命ずる。 貴方の報告書は混乱を招いている。 「二人の王」という神託の真意を確認し、詳細な報告を求める。 貴族議会からも問い合わせが殺到している。 教会の威信に関わる事態である。

 大司教 マクシミリアン



(やっぱり…混乱させてしまった)

 二通目の封を切る。近衛騎士団の紋章が押されていた。


【近衛騎士団長より】

 ルミナ

 君の手紙を読んで驚いている。 陛下は即位以来、何かに悩まれている様子だった。 「もう一人の王がいるはず」と呟かれることがあったが、 まさか本当だったとは。 陛下は君の手紙のことはご存じない。 詳細が分かったら、まず私に連絡を。 陛下をお守りしたい。

 レオニード・グラスト



(レオニードらしい…カイロス様のことを第一に考えてる)

 最後の手紙は、女性らしい美しい文字で書かれていた。


【セリア・ヴァンローズより】

 ルミナ様

 お手紙、驚きました。 でも、なぜか納得もしています。 カイロス様は最近「俺一人では駄目だ」と漏らされることが多く、 まるで何かを探しているようでした。 貴族議会では完全に孤立し、 民の声も届かない状況が続いています。 もし本当にもう一人の王がいるなら、 カイロス様を救ってくれるかもしれません。 一刻も早くお戻りください。

 セリア・ヴァンローズ


 ◇◇◇◇


 ルミナは三通の手紙を読み返した。

 教会は混乱と体面を気にし、レオニードは主君への忠誠から行動し、セリアは心からカイロスを支えようとしている。

 三者三様だが、全てがカイロスの苦境を物語っていた。


(でも、まさか一つ目の村で本人に会えるとは思わなかった)


 神託で見えたビジョンは曖昧だった。

 鍛冶場と、この方向という程度。

 鍛冶を産業にしている村を順番に回るつもりだったが、まさかこんなに早く見つかるとは。


(余計に混乱させてしまったけれど、もうそれは過去のこと)


 窓の外を見つめながら、ルミナは別のことも考えていた。

 実は、教会も貴族の横暴には辟易していた。

 特別な力を持つ者を無理やり囲い込み、扱いも良くない。

 そんな情報が度々入ってきている。


(貴族の横暴も、露見してしまえば…)


 少し悪い考えも頭をよぎった。 しかし、それよりも大切なことがある。


(でも、彼がいれば良い方に変わるかも)


 アレンの瞳を思い出す。

 純粋で、人を守ろうとする意志が宿っていた。


(カイロス様とは違う質だもの)


 カイロスは戦場で鍛えられた王。力強く、決断力がある。

 アレンは争いを嫌うが、それでも人を守るために立ち上がる。

 二人が出会えば、きっと互いを補い合えるはず。


(やはり...二人の王が出会わなければ)


 神託の意味が、より明確になった。

 カイロスは一人では王として完全ではない。アレンもまた然り。


 星が瞬いている。 明日、アレンに王都行きを勧めよう。


 二人の運命を結ぶために。


 手紙を大切にしまいながら、ルミナは祈りを捧げた。

 創造神よ、どうかこの国に平安を。

 そして、二人の王に試練を乗り越える力を。


(今度は、きちんと報告しないと)


 次は中途半端な報告ではなく、全てを明確に伝えよう。

 そう心に決めて、ルミナは深い眠りについた。

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