第20話 予期せぬ来客
「良し、今日はここまでにしよう」
セリオンが肩で息をし始めたのを見て、ロイスは木剣を固い地面に突き刺すと、衝撃波を放って衛兵たちの動きを止めた。
(地面に木剣が刺さるって、どういう力なんだ)
恐らくは衛兵たちと同様の思考を浮かべ、引きつった笑みを浮かべるレイフォード。
その目の前で、セリオンが膝を付いた。
「大丈夫かセリオン。こんな乱闘まがいの鍛練に良く付き合い切ったな」
オズワルドの隣から歩き始め、レイフォードは言いながら幼い息子の前に歩み寄る。
父の声にパッと顔を上げるセリオン。
その目には外から見た疲労感とはかけ離れたキラキラ輝く瞳がレイフォードの姿を捉えていた。
「お父様!」
「ロイスの剣はどうだった?」
「凄かったです。力と速度は常人とは思えませんでした。それでもなんというか、余裕がある戦い方で、きっとロイスさんはもっともっと強い方なんだと思いました」
レイフォードの問いに、いつもより早口で話すセリオン。
そんなセリオンの後ろに立ったロイスは一筋流れた汗を拭うと笑顔を浮かべる。
「アナタの息子は凄い才能を持っているな。きっと将来は世に名を轟かせる剣士になるよ」
「ロイスにお墨付きが貰えるとはな。将来が楽しみだ」
(ゲームでも世に名は知れ渡ったが、それは悪役貴族としての悪名だ。そうならないように、優しい子に育ってほしいが)
汗だくの息子の頬や額を、胸ポケットから出したハンカチーフで拭い、抱き上げるレイフォード。
突然父に抱き上げられて驚くが、セリオンの顔には嬉しそうな笑みが浮かんだ。
「ロイス、うちの衛兵たちはどうだった?」
「うん。こちらも少々驚いているんだけど。ただの衛兵にしては練度が高い。王都の騎士団でも通用する者も数人いるよ。あそこの確か、アルフ君とかね」
そう言って、振り返ったロイスの視線の先。
そこには今日までセリオン専属の指導役を担っていた大剣使いの衛兵、アルフが足を震わせ、長い木剣を杖代わりに立っている姿があった。
そんなアルフに、レイフォードはセリオンを抱えたまま近付いていく。
「レイフォード様、申し訳ありません。このような醜態」
「いや、あの化け物相手に立っているだけ見事だ。ロイスもお前と同じ大剣使い。あいつから良く学び、強くなって、これからも私やセリオンを支えてくれ」
微笑みをアルフに向けたレイフォードは、振り返って衛兵たちにも笑顔を向ける。
「お前たちもだ。我がヴァルメリアの衛兵として、これからも研鑽に励み、私たち家族を支えてくれると嬉しい。よろしく頼むぞ」
レイフォードの言葉に、跪き「はっ!」と、声を揃えて頭を下げる衛兵たち。
その様子を見て、レイフォードは笑顔を向けたまま内心では(コレが、正解なんだろうか)と、誰に聞くこともできない疑問を胸の内にしまい込んだ。
「お前たちは少し休憩したら仕事に戻ってくれ。ロイス、お前は付いて来い」
レイフォードの言葉に応えて、立ち上がり、敬礼する衛兵たち。
その後ろで、ロイスは軽く頷いていた。
それを見て、レイフォードはセリオンを抱えたまま歩き始める。
「レイフォード卿。アナタは優しい人だな」
「レイか、もしくはフォードでいいぞ、ロイス。お前に改まられると、なんだかむず痒い」
「仕える主を愛称で呼べって? 無理言うなあ」
「表向きは俺の従者だが、お前は友人だ。公式の場や来客の前、他の部下の前以外ではそう呼んでほしいところだ」
レイフォードの言葉に、後ろを歩くロイスは困ったように眉をひそめ、苦笑を浮かべる。
その様子を見て驚いていたのは、ロイスの横を歩いていた執事長のオズワルドだった。
これまでに、レイフォードには愛称で自分を呼ばせるほどの友人がいなかったからだ。
「ロイス殿、私からもお願いいたします。私亡き後は旦那様を支えていただきたい」
「やめろ爺。縁起でもない願いを口にするな。長生きしてくれ」
「そうだねえ。せっかくこうして知り合ったんだし。執事長さんには長生きしてもらいたいなあ」
そんな話をしながら屋敷で裏手から表の庭に向かって歩いていくレイフォードたち。
そこへ、エレーナと手を繋いでイリステラがやってきた。
魔法の勉強と訓練を終えて、屋敷内へと戻ろうとしていたようだ。
「行っておいで」
そう言って、レイフォードはセリオンを掃除の行き届いた石畳の通路に下ろすが、セリオンは父の手を握り「お父様も行きましょう」と笑顔を浮かべる。
その笑顔に、レイフォードも「ああ、そうだな」と、微笑みを返すが、合流しようとした家族の元に「旦那様! レイフォード様!」と、門番を務め、ロイスの特訓を回避した運の良い奴が駆けてきた。
「どうした? 何を急いでいる?」
「お、お客様がお見えです!」
「客?」
門から屋敷まではそこそこの距離がある。
とはいえ鍛えられた衛兵が駆けて疲れるような距離ではない。
それなのに門番は汗をたっぷりかいている。
表情も疲れよりは焦っているようにレイフォードには見えた。
「伯爵様が、ルシアン・レインハルト伯爵がお見えです!」
「レインハルト伯?」
(誰だっけか?)
聞き覚えはあるが、いまいちパッと思い出せないレイフォード。
すると、跪いて報告してきた門番を心配そうに見下ろすレイフォードたちの耳に、馬の蹄の音と、馬車の車輪の音が聞こえてきた。
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