第5話《レオン視点》スキル喪失

その日、レオン・フェルマークは、朝の訓練を終えたあと、食堂の長椅子にふんぞり返っていた。


十歳にして領主の嫡男、己が屋敷の中心に座すのは当然のことだ。


手元の木製カップを口に運ぼうとした、そのとき――。


《予告状をお届けします。三日以内に、あなたのスキル【身体強化・初級】をいただきます》


頭の中に、直接響く声のようなものが届いた。

レオンは反射的にカップを落としかけ、慌てて握り直す。


「……は?」


周囲の従者が怪訝そうにこちらを見るが、すぐに話題を戻した。


今のは何だ?スキルか?だが、こんな念話じみたものは初めてだ。


それに「予告状」?

まるで盗賊の真似事ではないか。


レオンは鼻で笑った。


「くだらない。」


父に強請り、ようやくスキルオーブから得たスキル【身体強化・初級】は、凡庸ではあるが貴重な力だ。盗めるはずがない。


ましてや、この屋敷内でこの俺から。


その後三日間、レオンは多少の不安を抱えながらも、普段通りの日課をこなした。


剣の稽古。弓の射練。午後の遊戯。どれも変わらずこなせた。


「やはりただの幻聴か、くだらぬ悪戯だ。」


そう結論づけ、すぐに忘れようとした。


だが――四日目の朝。


訓練場で木剣を振るった瞬間、異変に気付いた。


「……重い?」


木剣の重さは昨日までと変わらない。だが、振り下ろす腕に力が乗らないのだ。


足に力を込めても、地面を踏みしめる感覚が薄い。身体の芯から力が抜け落ちたような、奇妙な虚脱感。


慌てて魔力を巡らせようとする。

普段なら自動的に肉体を補強してくれるはずのスキルの感覚が――ない。


いくら集中しても、体が応えてくれない。


「……な、何だこれは!」


叫び、何度も構え直す。

だが木剣は重く、踏み込みも浅い。


従者の一人が不安げに声をかける。


「坊ちゃま、どうなさいました?」


「黙れ!」


怒鳴りつけながらも、心の中は冷汗でびっしょりだ。


――予告状。

本当に、奪われたのか?


そんな馬鹿な。スキルを盗むなど聞いたこともない。


レオンは血相を変えてギルドの魔術師を呼びつけた。


だが鑑定を行った老魔術師の答えは残酷だった。


「……確かに、坊ちゃまのステータスから【身体強化・初級】が消えておりますな。」


「馬鹿なッ!」


この屋敷に侵入できる者など限られている。

だが、誰も怪しい者はいない。


奴隷どもは怯えながら食堂を片づけ、従者たちは平然と訓練を補佐していた。


(どうやって盗まれたのだ?)


レオンは拳を震わせた。


屈辱。信じられない喪失感。


そして、見えない何者かに「予告通り奪われた」という現実。


「……絶対に、見つけ出してやる。」


そう吐き捨てた声は、まだ幼さを残していたが、瞳の奥には異様な怯えが揺らめいていた。

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