奴隷から【怪盗】にクラスチェンジ〜生まれながらの奴隷は選び盗る〜

@test555

第1話 記憶と力

石畳の中庭に、乾いた音が響いた。


「ぐっ……!」


視界が揺れ、少年は土埃の上に崩れ落ちる。


少年を殴ったのは、仕えている領主家の嫡男――年は同じ十歳だが、着ている服も、体格も、立場も、すべてが違う。


「奴隷のくせに、僕の視界に入るな!薄汚い!」


少年の耳から、鼻で笑う声が遠ざかっていく。


――そこで意識は闇に沈んだ。


次の瞬間、まるで何年分もの物語を一気に押し込まれるような夢を見た。


――広がるのは見知らぬ国の風景。鋼とガラスでできた塔が空を貫き、人々は奇妙な四角い箱に乗って街を駆ける。夢の中の自分は、どうやら別の男の人生を生きているらしい。名前は〈高宮 悠人〉――日本という国で三十余年を過ごした男。


■■■


目を覚ますと、土の匂いと冷たい空気が鼻を突いた。そして、今までの自分にはなかった感覚が二つ存在していた。


一つは、〈高宮 悠人〉の知識と経験が少年の中に確かに存在していた。


二つは、自分の中に大きな鼓動が脈打っているのを感じた。


いや――鼓動ではない。

何か、知らない力が血の流れに溶け込んでいる。


――ギフト【怪盗】

そう呼ぶ言葉が、自然と脳裏に浮かんだ。


ギフトとは、経験や才能で得られるスキルとは別に、ごく稀に一定の条件下で発現する固有の特異能力。


自分の状況を確認する。


身体はまだ痩せこけた十歳の少年だ。だが、その心には三十余年の高宮の人生と、そして新たな怪盗が宿っている。


「気絶するほど殴られたショックで前世知識を思い出したと考えるべきか?それとも、この少年の中に高宮の人格が入り込んだのか?………まあ、考えても仕方がないか。」


この瞬間から、少年の運命は、領主家の奴隷という小さな檻を壊し、遥か遠くへと歩み出す。

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