第31話 罠!?

 2学期が始まってすぐ、校内は文化祭準備で慌ただしくなっていた。

 そういう陽菜乃も、環境委員の生徒と一緒に文化祭用のゴミ箱を設置していた。

「この階は、ここに置いてね」

 手元のプリントと照らし合わせながら指定された場所に置いていく。

 別の階へ移動しようとしたその時、後ろから陽菜乃を呼ぶ声が聞こえた。

「久慈せんせーい!」

 琴子が手をひらひらと振りながら駆け寄る。

「戸沢さん、何かあった?」

「委員会の仕事が終わったらでいいんですけど、教室の準備が出来上がったので来てください!」

 自分が副担任をしているクラスのことだし、見に行ってあげよう。そう思った陽菜乃はすぐに返事をする。

「これ、もうすぐ終わるから、もう少ししたら行くね」

「ありがとうございます!」

 パッと笑顔を見せた琴子は、楽しげに走って去って行った。


 委員会の仕事も終わり、1年3組の教室へ行くと、待ち構えていたかのようにいつもの3人組が現れた。

「あ、久慈先生。入ってください!」

 紬に導かれて教室内へ足を踏み入れると、美穂の姿があった。

「久慈先生も、お試しですか?私もさっきやってみたんですけど、なかなか上手にできていて、面白いですよ」

 確かに美穂の言うとおり、装飾もこだわっていて、完成度も高かった。

 陽菜乃が教室を見回していると、ゆあが台本を読み上げ始める。

「あなたはこのお屋敷のメイドのミホさんです。このお屋敷で起きた事件を私たち先輩メイドとともに解決してください!」

 紬の指示で一歩進むと、琴子が現れた。

「大変です!お屋敷でご主人様の日記帳の1ページが見つかりました!見てください、恋の記録です!」

 陽菜乃は渡された紙を見る。


“いつもありがとう。

つい君を頼ってしまうけれど

も、いつも考えているのは君

のこと。

まだ伝えられていないけれ

ど、君はわたしのとく

べつな人。”


「なにこれ、ラブレター?」

 首を傾げる陽菜乃に、琴子が助言する。

「何かがおかしい気がします!」

 陽菜乃はしばらく紙を見る。何かおかしいところ…

—変なところで改行されてる…!縦読みかな?

「いつもの窓辺?」

 窓の方を見ると、ゆあが手招きしていた。

「ミホさん!あっちの窓の方に、何か落ちてます…!」

 窓台に置いてあった封筒を持ってくる。

 中身を取り出すと、手紙のようなものが入っている。


“君のことを考えると、胸がど_どきする。

姿が_えたときには、心_あたたか_なる。

そんな気持ちを隠すのは苦しい。け_ども、いつか君につ_えたい。

私が_当に好きなのは君だと。”


 陽菜乃はしばらく考え込む。

—明らかに不自然なのは、文字が抜けて、下線になっているところ?

「メモ用紙とペンです。よかったらお使いください!」

 紬からメモ用具を受け取り、抜けている文字を書き出してみる。

「きみがくれた本」

—本といえば…

 陽菜乃が教室を見回すと、本棚が目に入った。

「本棚?」

 本棚の前に移動すると、表紙に一文字ずつ文字が書かれた本が数冊置いてある。

「並べ替えたら何かわかるかもしれないです!」

 紬が本を持ち上げて、陽菜乃に渡す。

—なんだなんだ?

 8冊の本を並べてみる。これであっているのか?

「想っていたのは君」

「あー!日記の最終ページが見つかりましたー!」

 本棚の裏から琴子が現れ、紙を陽菜乃に見せる。どれどれ…

「ミホ、君が好き」

 思わず読み上げてしまった陽菜乃は、頬が熱くなるのを感じた。

 横を見ると、美穂がにっこりと微笑んでいる。

—え、なにこれ。まずいっ…!告白したみたいになってる!?

「ね、よくできてるでしょう?」

 陽菜乃が焦っているのもお構いなしに、美穂は近づいてそう呟く。

「なんと、ご主人様の恋の相手はミホさん、あなただったようです!ここまでお付き合いいただきありがとうございました」

 ご丁寧に、エンディングのナレーションまでついているなんて。あの3人、もしかして狙って仕掛けてる?これは罠なのか?

—いや、これはただの謎解き!そう、謎解き…。

 そう思おうとしているのに、胸の鼓動は一向に落ち着いてくれなかった。

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