第26話 帰省!

 新幹線と普通列車に揺られること5時間。そこには、昔よく見た景色が広がっていた。

 お昼前に家を出たのに、実家の最寄り駅に着く頃には茜色の空が広がっていた。

 スーツケースを転がし、駅前のロータリーを歩く。陽菜乃は大学進学で家を出てから、あまり実家に帰ることはなかった。

 だが、前回帰省したのが4年前だったのと、夏休みに予定がない日が3日続いていたので、久しぶりに帰ってみることにした。

 陽菜乃は駅前をふらりと歩いて、ロータリーを見回す。

 姉が駅まで車で迎えに来てくれることになっていたはずなのだが、車が見当たらない。

 4年ぶりの帰省のため、車も変わっているのかもしれない。

 陽菜乃はそわそわして、電話をかけようとスマホを取り出すと、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「ひなのー?」

 声のするほうに顔を向けると、4年前と変わらないワンボックスカーが停まっていた。

「お姉ちゃん」

 陽菜乃より5つ年上の姉、沙弥香さやか

 なんだか前に会ったときよりも、家庭的な雰囲気になった気がする。

「スーツケース、後ろに載せちゃうからちょうだい」

 沙弥香は運転席から降りて、バックドアを開けた。

「こんにちは」

 ドアを開けると、少し舌っ足らずな子供の声が聞こえてくる。

 陽菜乃が車の中を覗くと、そこには小さな女の子がいた。

「もしかして、瑛茉えまちゃん?」

「はいっ!」

 陽菜乃の予想は的中した。車に乗っていたのは陽菜乃の姪の瑛茉だった。

「大きくなったね~」

「5歳になりました!」

 前に会ったときは、まだ赤ちゃんだったのに、会わない間にすっかり大きくなっていた。


 車に乗って数分、実家に到着した。

「ただいま」

 陽菜乃が玄関に足を踏み入れると、ドタドタと奥からこちらに向かってくる足音が響いた。

「あら、陽菜乃。おかえりなさい」

 母の姿を見て、少し安心する。変わってないな。

「長い時間列車に乗って、疲れたでしょう。手洗って、上で少し休んで来たら?」

 長時間の移動に疲れていた陽菜乃は、お言葉に甘えてかつて自室だった部屋で休むことにした。


 陽菜乃が高校生のときまで使っていた部屋の扉を開ける。

 その部屋は4年前、最後に帰省したときと変わらず、陽菜乃が置いていったものしか残っていなかった。

 いくら実家といっても、家を出て12年の間、東京や埼玉で暮らしていると、ここは少し退屈に感じた。

 荷物を置いて、ベッドに横になる。

 顔を左に向けると、本棚にある卒業アルバムが目に入った。

—昔の自分はどんな感じだったかな。

 ふと思い立って、開いてみることにした。


 ページをめくると、まだあどけなさが残る高校生の陽菜乃が写っていた。

 この田舎で育って、地元の高校を卒業して。

 今の陽菜乃から見ると、なにも知らない無邪気な子どもの顔に見える。

 当時はこれでも色々考えておしゃれしてたつもりだったんだけど。

 さらにページをめくると、当時の先生たちの写真が。

—あ、小野上おのがみ先生…

 陽菜乃の視線は無意識のうちに動く。

 小野上麻衣まい。少しウェーブがかかった明るい茶髪のロングヘアに、キリッとした目。

 陽菜乃は胸が高鳴るのを感じた。

 先生は、初恋の人。

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