第18話 夜の足取り
夜の駅前は人の波で賑わっていた。
「じゃあ、私たちはこっちの電車なので」
円香が矢印の方を指差す。
「気をつけて帰るんだよー。また来週!」
凛は大きなふ菓子を抱えたまま、明るく手を振る。
「今日はありがとうございました。楽しかったです!」
陽菜乃は軽く会釈して、改札へと向かった。
やがて到着した電車に乗り込むと、車内は昼間の賑わいが嘘のように静かだった。
窓の外には、街の灯りと車のテールランプが流れていく。
川を越えると、だんだんと建物の灯りが増えていき、いつもの日常に戻されそうな感覚になる。
陽菜乃は飴が入った手さげ袋の持ち手を強く握る。
今日1日を振り返ると、凛の笑い声や、円香の楽しそうな姿、綺麗な景色も浮かんでくる。けれど、最後に思い出すのはやはり美穂のことだった。
やがて電車が大きな駅に差しかかる。
降りる人の流れに押されるようにして、陽菜乃も席を立った。
乗り換えのために別のホームを目指して歩く。人とぶつからないように、規則的な人の流れに合わせて足を止めることなく動かす。
目的のホームへ続く階段を降りるために、流れからはみ出ると、どこか自分だけ取り残されたような心細さを覚えた。
けれど同時に、ほんの少しだけ、自分の足で選んで進んでいるようにも感じる。
そんなとき、手提げ袋の中で飴がころんと転がる。
今日、美穂のことを考えて選んだ飴。まだ渡してもいないのに、お守りのような存在になっていた。
—日比谷先生に、渡せるかな。
渡せなかったとしても、それでもいい。そしたらこっそり食べちゃおう。それはそれで美味しいはず。
でも、渡せたら。そのときは、きっと一歩だけ前に進める。
今の陽菜乃の気持ちは、そう簡単には言えるものではない。それでもいつか、本当のことを伝えられたら…
発車を告げる音楽が鳴り、扉が閉まる。陽菜乃は深呼吸をして吊り革を握った。
窓に映る陽菜乃の顔は、どこか少しだけ決意を秘めているように見えた。
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