第17話 お出かけ!(3)

 カフェレストランでランチを終え、散歩がてら数分歩くと、蔵造りの街並みが見えてくる。

 古風な建物が整然と並び、軒先には和菓子や工芸品の店が顔を覗かせている。

「わあ、雑誌で見た写真と同じ…!」

 円香が嬉しそうに声を弾ませる。

「なんか、ちょっとタイムスリップした気分だね」

 凛もきょろきょろと辺りを見回しながらはしゃいでいる。

「落ち着いた雰囲気で素敵な街並み…」

 陽菜乃は胸いっぱいに深呼吸をして、ゆっくりと歩き出した。


「ここが菓子屋横丁だって!」

 円香が指差す先には、駄菓子屋や飴屋など様々な店が並んでいた。

「あ、見てください!おさつチップス!」

 店先で子供のように目を輝かせ、さっそく購入していた。

「金町先生、久慈先生もどうぞ!私の奢りです〜!」

 戻ってきた円香は3人分のチップスを購入して、両手がいっぱいになっていた。

「え、いいの?」

 凛はチップスを前にはしゃいでいる。

「橋本先生、ありがとうございます」

 チップスを受け取ると、甘く香ばしい香りが漂う。美味しそう。

「ふふっ、せっかくだし—」

 円香がスマホを取り出し、ぱっと顔を輝かせる。

「これ持って、みんなで写真撮りましょ!」 

「おー、いいじゃん!」

 凛は学生のようなノリで円香の隣にくっついて、チップスを掲げる。

「ほら、久慈先生もっ!」

 影に隠れるようにしていた陽菜乃も円香に引っ張られ、渋々応じる。写真はあまり得意ではない。

—まあ、旅の記念だからいいか…


 カシャッ。


「わあ、いい感じ〜!」

 画面を覗き込む円香の隣で、凛も「いいじゃん」と頷いていた。

 恐る恐る円香のスマホを覗き込んだ陽菜乃は、3人で肩を寄せ合い、笑い合う姿が目に入る。

 少し照れながらチップスをひとかじり。甘い香りとパリパリの食感が広がった。

—こういうのも悪くないのかも

 

「うわっ、見て!めっちゃ長いふ菓子!」

 しばらく歩くと、今度は凛が店先で足を止め、興奮気味に指差した。

 そこには1メートルくらいありそうなふ菓子がずらりと並んでいた。

「…え、持って歩くんですか?これ」

 円香が苦笑いを浮かべる。

「ちょっと恥ずかしくないですか?流石に」

 陽菜乃も同じく気恥ずかしそうに顔をしかめる。

「いや、絶対面白いって!」

 凛は店に飛び込み、迷わず一本手に取っていた。

「じゃーん、お土産!」

 誇らしげに抱えるその姿に、陽菜乃と円香は顔を見合わせて笑う。

「金町先生って、学生みたい」

「まあ、その元気さがまたいいっていうか」

 陽菜乃と円香は少し呆れつつも再び笑った。


 そのとき—


 ゴーン…。

 午後3時を告げる鐘の音が響き渡る。深く落ち着いた音色が、ざわめきの中に溶けていった。

 陽菜乃は思わず足を止め、時の鐘を見上げる。なんだか不思議と心の奥が澄んでいくような気がした。


「…あっ、見てください!」

 円香の声を聞き、顔を向けると、手作り飴の店が目に入る。

 花の柄があしらわれた飴やカラフルな金平糖など、可愛らしい飴が並んでいた。

「すごい、可愛い…」

 陽菜乃は引き寄せられるように近づいた。

 手作りならではの昔ながらの雰囲気やあたたかさが感じられ、どこか懐かしい気分になる。

—…日比谷先生なら、どれを選ぶかな。

 ふいに美穂の笑顔が頭に浮かぶ。

 プレゼントしたら、喜んでくれるだろうか。どんな顔を見せてくれるだろうか。

 陽菜乃は少し迷ったあと、そっと2種類の飴を手に取った。

 

 陽菜乃はひまわりの柄の飴と、さくら草の柄の飴が入った袋を大事に手に持つ。

「その飴、可愛いですね。誰かにあげるんですか?」

 何気ない円香の問いに、陽菜乃の指先が一瞬止まる。

「まあ、そんなところですかね」

 曖昧に笑って誤魔化しながらも、頭には美穂の姿がはっきりと浮かんでいた。

—日比谷先生に渡せるかな。

 傾きかけた陽の光が、人混みの向こうでやわらかく揺れていた。

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