第14話 話せた…!
放課後、陽菜乃が職員室で授業のプリントにコメントを書いていると、前の席から椅子を引く音が聞こえる。顔を上げると、美穂がにこやかに近づいて来た。
「クラスの出し物、メイド謎解きに決まったみたいですよ。メイドって、女子高らしくて可愛いですよね。みんなが衣装着てるところ早く見てみたい」
美穂が嬉しそうに話している。その笑顔に少しドキッとする。
「そうなんですね。可愛い組み合わせでいいと思います」
「…久慈先生も、学生のとき、こういうのやりましたか?」
陽菜乃は突然自分のことについて聞かれて驚く。
「私が高校生のときは、演劇とかやりましたよ」
思わず口にすると、美穂は興味深そうに目を細めた。
「演劇?どんな役だったの?」
美穂はまるで陽菜乃のことをもっと知りたいとでも言うようにに聞いてくる。
「創作劇で、閉ざされた村に住む歌姫のお話みたいなものでした。そ、それで私は、その歌姫の役を…」
そこまで言って、陽菜乃は耳まで熱くなるのを感じた。
「周りに勧められて、仕方なくだったんですけどね…」
「それ、すごいじゃないですか!」
美穂は目を輝かせ、まるで生徒に話しかけるみたいに楽しそうにしている。
陽菜乃は一瞬、膝の上に置いた手に力が入った。
「えっと…当時の音楽の先生に、放課後に練習を見てもらって。発声を直してくださったり、伴奏してくださったり」
思い出すと胸がぎゅっとなる。だって、あの時の時間は…
「そうだったんですね。じゃあ、音楽の先生になったのも、その頃の経験が関係しているのかな」
美穂の言葉に、陽菜乃は思わず瞬きをする。
「…はい、そうですね。それのおかげで今の私があると言っても過言ではないくらい」
小さな声で答える。昔のことを思い出すと、胸の奥がざわめくのを感じる。
「いつか久慈先生の歌、聞かせてくださいね」
美穂が軽く微笑みながらそう言う。陽菜乃は思わず声を上げた。
「え、私のですか?」
「ふふ、もちろん。歌姫役を演じた久慈先生の歌声、私も聞いてみたいなって」
頬が熱くなるのを抑えきれない。陽菜乃はプリントの束の角を揃えながら視線を逸らす。
「…機会があれば、ですけど」
「楽しみにしてますね」
美穂はそれ以上深掘りせず、にこやかに席へと戻っていった。背中で揺れる長い髪は、美穂が動くたびに楽しげに跳ねていた。
—って、あれ?もしかして私…今、自然に話せてた?
胸の奥に、くすぐったいような達成感と、どうしようもない高鳴りが残っていた。
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