ひなみほ観察記録3
6月下旬。ホームルームでは、9月に行われる文化祭でのクラスの出し物決めが行われていた。
「じゃあ、ここからは文化祭実行委員にバトンタッチしますね。何かあったら職員室にいるので、呼びに来てください」
そう言い残し、美穂は職員室へ向かった。
「ねえ、美穂さん職員室戻っちゃったよ。せっかく観察しようとしてたのに」
琴子が不満そうに言う。
「しょうがないね。うちの高校、こういうことには先生はあまり関わらないから。生徒の自主性を重視してるみたいだし」
紬が小声で呟くと、ゆあが続ける。
「文化祭のクラスでやるもの決めるんだって。1年生は飲食系はダメだから、劇、展示、バザー、ゲームとからしいよ。まず近くの席の人たちで話し合うんだって」
しっかりと委員の話を聞いていたゆあが紬たちに伝える。
「うーん、何がいいかね。劇は恥ずかしいからいやかも」
「お化け屋敷とかはよくあるし」
「展示もちょっと大変そう…」
教室の中は、案を出し合う声で騒がしかった。
「メイドさんがたくさんいる教室とか楽しそう!」
琴子が3人にだけ聞こえるような声で呟いた。
「でも、メイドカフェはできないんだよ?何するの?」
そっかー、と琴子が机に突っ伏す。
「謎解きとか、迷路とかもできるみたいよ?」
ゆあが去年のパンフレットを見ながら言った。
「そ、それ!メイド謎解きとかっ!どう!?どう?」
「なるほど」
紬は頷いた。琴子もたまにはいい案を出してくれるみたい、と思ったが、真面目なゆあは納得していない。
「え、でもそれ、はちゃめちゃすぎない?」
「まあまあ、班で1つ案を出さないといけないんだし。どうせ選ばれないっしょ。それよりさ、」
周りの話し声であまり声が通らないのをいいことに、琴子は別の話題に移そうとした。
「この間、音楽室に突撃したとき面白かったよねー」
「いやいや、琴子が突っ込みすぎてこっちはヒヤヒヤだったんですけどー。紬が無理矢理久慈先生の話題に変えてくれたから助かったものの…」
ゆあが呆れて言う。
「でもさー、久慈ちゃん先生が金町先生とか橋本先生と仲が良いっていうのも意外だったよねー」
琴子は頬杖をつきながらニヤニヤする。
「あの3人、系統が全然違うもんね」
紬も同意して頷く。
「あ、橋本先生とか、絶対メイド服似合うと思うんだけど!着てくれないかなー」
「ちょっと、そんなことしたら…」
突然の琴子の発言に、紬が小声で止めるが、ゆあは机に手を重ねて目を輝かせる。
「確かに。想像すると似合いそうかも。橋本先生って可愛いよね」
ぽつりと呟いたゆあの言葉に、琴子が「おおー?」と冷やかすような視線を向けた。
「ち、違うの!別にそういうのじゃなくて!」
顔を赤らめ否定するゆあ。その顔はいつもよりちょっと可愛かった。
「でもさ、」
不意に琴子が真顔になり、頬杖をついて呟く。
「久慈ちゃん先生、美穂さんのこと全然話さないよね」
「…たしかに」
紬とゆあが頷く。
「音楽室のときもさ、あんなドキドキしてそうだったのに、ありきたりな答えで済ませて。しぶといなー、あの先生」
琴子は唇を尖らせながらもどこか楽しそうだった。
「まあ、本当に好きだったとして、生徒にそんなこと話せるわけないでしょ」
ゆあが呆れたように笑う。
「わかってるけどさー、観察してる側としてはもう少し進展が欲しいというか…」
琴子がわざとらしくため息をつくと、紬とゆあは顔を見合わせて笑った。
「メイド謎解きに、決まっちゃったよ…」
琴子が黒板を見ながら声を上げた。
「採用、されちゃったね。メイド謎解き…」
紬が琴子の肩に手を置く。
「琴子、シナリオだって。私たちも手伝うから…ね?」
ゆあが琴子を慰めると、琴子の心にも火がついたようだった。
「よーし。久慈ちゃん先生と美穂さんをくっつける謎解きを作る!」
3人にだけ聞こえるような声で琴子はそう言った。
紬とゆあは苦笑いしながらも、これからシナリオや謎解きを考えるのが楽しみになっていた。
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