第13話 バレてる!?

 中間考査最終日。生徒たちはテストが終わってホッとしているのだろうが、教員はテストの採点に追われていて、職員室は慌ただしかった。

 堤ヶ丘女子高校では、音楽のテストは学期末に歌のテストがあるだけで、中間考査はない。陽菜乃は職員室を出て、音楽室へ向かった。


 期末テストの課題曲の伴奏を練習しておきたかった。生徒たちが歌うときに、余計なミスなく弾けるように。

 鍵盤の上に置いた自分の指を見つめ、陽菜乃は一度深呼吸をしてから弾き始める。

 誰もいない静かな音楽室に、穏やかな旋律が流れる。職員室から切り離されたこの場所は、陽菜乃にとって、小さな隠れ家のようなものだった。


—ガラガラ。

 突然、扉が開く音がして、陽菜乃はピアノを弾く手を止める。

「ほら、やっぱり久慈ちゃん先生だ」

 勢いよく顔を出したのは、1年3組の生徒の戸沢琴子だった。その後ろから琴子の腕を引っ張る小諸ゆあと、申し訳なさそうにしている茅野紬もいた。

「ちょっと、琴子!いきなり入ったら迷惑だって!」

 慌ててゆあが止めるが、琴子は全く気にせず、音楽室の中にずかずかと入ってきた。それに引きずられるようにして、ゆあと紬も音楽室の中に入る。

 陽菜乃は困惑しつつ、ピアノから手を離す。


「みんな、どうしたの?」

「テストが終わったから、ちょっと遊びに来てみました!」

 琴子が笑顔で机に手をつく。

「返却されるまで終わってないから」

 ゆあがすかさず突っ込む。

「でも、音楽は期末に歌のテストあるよ?ひとりずつ歌ってもらうからね」

 陽菜乃は少し脅かすようにそう言った。

「うげっ」

 3人がそろって顔をしかめる。

「先生、テスト終わったばかりの私たちに、そういうこと言わないでくださいよ〜」

 琴子が抗議するように椅子から半分立ち上がる。

「そういえば、」

 琴子が首を傾げながら尋ねる。

「久慈先生って、この学校に仲良い先生とかっているんですか?」

—え?

 思わず手を止める陽菜乃。冷静になって考える。

—あ、凛とか、橋本先生とか。

「えーっと…金町先生とか、橋本先生とかかな」

 3人は予想外のことが起こったような顔をして驚く。

「え、なになに?あ、このメンバーは今年この学校に来た3人でね、それで仲が良いっていうか」

「へー、そこって仲良かったんですね。初めて知りました。ところで…」

 琴子が急にニヤニヤしながら続ける。

「日比谷先生のこと、どう思いますか?」

「え?」

 突然美穂のことを聞かれて、陽菜乃の声は思わず裏返る。

「ちょっと、琴子!」

 ゆあがすぐに琴子の肩を叩いた。

「先生を困らせるようなこと言わない!」

「えー、別にいいじゃん。ただの質問だよ?茅野ちゃんもそう思うよね!?」

 琴子は全く悪びれずに笑っている。いきなり当てられた紬は困った顔をしていた。

 陽菜乃は内心焦りながらも、平静を装った。しかし、先日の雨の日の出来事が思い起こされる。陽菜乃は顔が熱くなるのを感じた。

「…いい先生だと思うよ。生徒思いだし、授業に対しても真剣で。人のこともよく考えてくれてるんじゃないかな?」

「ふーん」

 琴子がまだ探るようにニヤつきながら笑う。その後ろでは小声で、やめなよ、と紬とゆあが琴子の腕を軽く引っ張っていた。

「で、でも久慈先生も、授業のときに周りをちゃんと見てて、生徒のこと気にかけてくれてるんだなって」

 あはは、と小さく笑いながら紬が早口で捲し立てる。

「そうそう、質問したときも丁寧に教えてくださったり…とか!」

 ゆあも続ける。

 思いがけない言葉に、陽菜乃は少し照れくさく笑った。

「ありがとう。でも、茅野さん、授業中は寝ないようにね。全部見てるからね」

「えっ!は、はい!」

 陽菜乃の一言に紬は目を見開いて驚き、恥ずかしそうにした。

「じ、じゃあ、そろそろ帰ろっかー」

 紬とゆあが琴子を押し出すように音楽室のドアの方へ向かう。

「先生、さようなら!また遊びに来まーす!」

 琴子がひらひらと手を振り、3人は音楽室を後にした。

 バタン、とドアが閉まると、音楽室は再び静寂に包まれる。


—びっくりした。

 急に美穂のことを聞かれるなんて。

 さっきの流れ、ちょっと不自然じゃなかった?

—もしかして、心、読まれてる!?

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