ひなみほ観察記録2
『た、たたた大変です!隊長!』
あれから数日後、3人のグループチャットに突然、琴子からメッセージが届いた。
紬は勉強の手を止め、通知からアプリを開いた。
続いて新しいメッセージが届く。
『ひなみほが一緒に車に乗っていましたー!』
紬はその一文を見た瞬間、目を見開き、思わず口元を押さえた。
—そんなに進んでるの!?
翌日、教室に着くと同時に、琴子が目をキラキラさせながら近づいてきた。その後ろには呆れ顔のゆあもいた。
「ねねね、昨日のあれ、見ちゃった〜」
「どういう経緯で?」
思わず紬は聞いてしまう。
「どういうって、私この近くに住んでるから、ちょっとコンビニ行きたいとき学校の前よく通るんだよね。それでそのとき」
琴子がこの近くに住んでいることは紬も知っていた。
「あんな大雨の中、コンビニ行ったの?」
ゆあが突っ込む。ゆあは相変わらず目の付け所が面白い。
「そこツッコむ?だってー、昨日発売したコンビニ限定の濃い抹茶アイスが早く食べたかったんだもん。おいしかったよ~」
「琴子らしいけど、今はそこじゃなくて…」
紬が話を元に戻す。琴子はいつも話が散らかって、油断してるとつい関係のない話を広げてしまう。
「はいはいわかってますよー。ひなみほの話ね」
琴子が気を取り直して話を続ける。
「コンビニに行くには、どうしても学校の前を通らなくちゃいけないのね。だから、少し警戒しながら通ってたんだけど、車が出てきたから立ち止まったの」
「それでそれで?」
紬とゆあは興味深々、琴子の話に真剣に聞き入っていた。
「んで、学校から車が出てくる!と思って、誰のだろうなーって見てたら、まさかのなんと」
「なんと?」
紬とゆあが息を呑む。琴子は一呼吸おき、小声で続ける。
「久慈ちゃん先生と美穂さんが2人で乗ってたの」
—えー!
紬は驚いて無言になる。
「どっちが運転してたの?」
そんな紬の隣で、ゆあがどんどん攻める。
「美穂さん」
琴子が即答すると、ゆあは舞い上がる。
「日比谷先生、そんな優しいところも素敵だね。かっこいい!」
「これはデート確定案件だね!」
琴子が机に身を乗り出す。
「え、大雨だったから、駅まで送ってあげただけじゃないの?流石にそこまでいってないでしょ」
現実的な考え方のゆあが呆れ顔で返す。
「でもでも、車って密室だよ?そこでふたりきり。何もないはずなくない?」
「…!」
紬の頭中に想像が広がり、顔がじんわりと熱くなる。
「ほら、茅野ちゃん隊長もそう思うでしょ?」
「わ、私は別にどっちでも…ていうか、隊長って何!?」
変な名前で呼ばれてふと我に帰る。
「だって、この間からいちばん気になってそうじゃん。ひなみほのこと」
「そ、そんなことない!琴子のほうこそ、人の車の中ジロジロ見て。しち、失礼だよ!」
「あ、噛んだ」
ゆあがからかい気味に口を挟むと同時に、予鈴が鳴った。
「また進展あったら教えるよん。授業中面白いことがあるかもだから睡眠厳禁!」
手をひらひらと振り、席に戻る琴子。
確かに、紬自身も陽菜乃と美穂のことが結構気になっている。ああいうことを言われると、色々想像しちゃうかも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます