ひなみほ観察記録1

 入学してすぐ、百合漫画好きがきっかけで仲良くなった、茅野ちのつむぎ戸沢とざわ琴子ことこ小諸こもろゆあ。放課後は1年3組の教室に残って、好きな漫画やアニメの話をして盛り上がっていた。そんな3人の放課後が大きく変わったのはこの日からだった。


「あの2人、何かありそう…」

 放課後の教室で、いつも通り3人で話していると、急に琴子がつぶやいた。

「なになに?あの2人って、誰?」

 琴子に続くように、ゆあが興味深々で聞く。

「久慈ちゃん先生と美穂さんだよぉ」

「えっ?何か見たの!?」

 紬は思わず大きな声をあげた。

「いつもは真面目そうな茅野ちゃんが一番興味ある感じ?」

 琴子のからかいに、紬は顔が赤くなるのを感じた。べ、別にそんなんじゃないもん。

「で、なんなのさ。琴子は何を見ちゃったの?」

 ゆあが琴子のからかいを遮るように、本題に戻した。

「んー、確証はないんだけどね。この間の音楽の授業で鑑賞があったじゃん?そのとき久慈ちゃん先生ずっと窓の外見てたんだ。」

「それとこれと、何が関係あるっていうの?」

 紬は早く結末が知りたくてうずうずしていた。

「まあまあ落ち着いて。次が面白いんだから」

 琴子が紬を落ち着かせる。

「でね、窓の先に何かあるのかなーって思って、鑑賞カード書きながらチラッと外を見たらね、隣の校舎で美穂さんが授業してたの!」

「えっマジで?それ見たかったんですけど!何で隣の席なのに教えてくれなかったの!」

「だって茅野ちゃん寝てたし」

 紬は授業中眠っていたことを後悔する。楽しいことはいつ起きるかわからない。

「ただ外を見てただけかもよ。久慈先生、最近疲れてそうだし」

 ゆあが冷静に返す。

「いや、あれは絶対惚れてますぞ。恋する乙女の目だったよー」

 ゆあの冷静な言葉を全否定するように、琴子は突っ走る。

「まあ、2人とも可愛い先生だなー、とは思ってたけど…」

 あっ、とゆあが何か思い出したかのようにスマホを取り出して、急いで操作をする。

「見てよ、これ」

 ゆあが見せたのは、体育祭の時に撮ったクラスでの集合写真だった。

「何これ。体育祭の写真じゃん」

 何がおかしいのかわからない紬は首を傾げる。

「違う、これ見て」

 ゆあが写真を拡大する。

「ガーッ!そ、それは!」

 拡大した写真を見た瞬間、琴子が頭を抱えて叫んだ。画面に映っていたのは、陽菜乃と美穂が2人でハートを作るポーズをしている様子だった。ぎこちない笑顔の陽菜乃とは対照的に、美穂の明るい笑顔が眩しい。

「この久慈先生、めっちゃ緊張してそう」

「紬もそう思う?やっぱ気にしてる…よね?」

 3人は顔を見合わせて頷く。

「明日から観察してみない?」

 琴子の提案に3人は即座に賛成した。

「これは面白くなりそうだねー」

「あんまり迷惑になるようなことはしちゃだめだよ」

 浮かれる琴子に注意するゆあ。

 紬もこれからの日々に内心ワクワクしていた。

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