第6話 ホントにこれっていいの!?

 結果発表のアナウンスが終わり、校庭は拍手と歓声に包まれる。

 陽菜乃は深呼吸をし、緊張が少し解けた。

「ふう…やっと終わった」

 生徒たちも笑顔で応援席へ戻っていった。

「クラスごとに集合写真撮るから、まとまってー」

 クラスの体育委員の生徒が指示を出す。女子高生の賑やかな声があちこちに飛び交う。

「ポーズどうする?」

「やっぱり、手でハート作るの可愛くない?隣の人と2人で」

「それいいね」

 陽菜乃は生徒の指示に従いながら、どの列に入るかを決めていた。

「久慈先生こっち来てー!日比谷先生の隣!」

 生徒の無邪気な声に、心臓が跳ねる。

 え、私が…?隣!?

 そして提案されたポーズは、まさかの2人でハートを作るポーズ。

—え、えっ...!今隣にいるのは、日比谷先生…?しかもこのポーズ…

 隣で美穂は自然に笑い、手を差し出す。

「こうかな?」

 その仕草は普段と同じく落ち着いた様子。向こうは何も意識していない。

—そう、日比谷先生はただ笑っているだけ…なんで私だけこんなにドキドキしてるんだろう。

 陽菜乃は必死に笑顔を作る。

「えっと、こ、こう…ですかね…」

 手を差し出し、無理やりハートの形を合わせる。

 視線を少しでも逸らそうとするが、すぐに美穂のことが目に入り、顔が熱くなる。

「はい、撮りまーす」

 別のクラスの生徒の声にカメラのシャッターが押される。

—ああ、もう心臓が破裂しそう!


 死ぬかと思った。なんだったんだあれは。

 体育祭の片付けが終わり、校庭のざわめきも徐々に消えていく。

 陽菜乃は深く息をつき、肩の力を抜いた。やっと帰れる。


 帰宅すると、スマホに通知が来た。学校の連絡ツールに今日撮った写真が届いていた。

 陽菜乃は無意識のうちに写真を開き、保存する。

—あ、ちょっと待って…いやいやいや、流石に気持ち悪いでしょ、私。

 とんでもないスピードで写真を保存した自分を叱りつけつつも、保存した写真を何度も見返してしまう。

 画面の中では隣でハートポーズを作る美穂の笑顔と、陽菜乃のぎこちない笑顔。

 陽菜乃はスマホを握りしめ、写真を見つめながら胸の奥で小さくつぶやく。

 日比谷先生と、またあの距離で会えるかな…?

 夜の静かな部屋で、今日の記憶と写真が重なり合い、陽菜乃の心はざわざわしていた。

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