第5話 気づかれたい

 五月の清々しくも、少し強めの光が校舎を照らし、生徒たちの声が響き渡る。クラスカラーのヘアアクセサリーを身につけたり、手作りの応援グッズを持っていたりと、生徒たちはいつもの授業とは違う、体育祭という行事を楽しもうとしていた。

 今日は陽菜乃にとって、堤ヶ丘女子高校での初めての体育祭。陽菜乃もいつもとは違う、クラスTシャツにズボンといった動きやすい格好をしていた。いつもはハーフアップの髪も、今日はポニーテールに結んだ。

 鏡の前でポニーテールを揺らすと、少しだけ気分が上がる。

 校庭の職員席に行くと、美穂の姿が目に入った。ジャージのズボンに黒い長袖シャツ、その上からクラスTシャツを着て、髪はひとつに結んでいる。

—お、お揃いじゃん、Tシャツ。

 陽菜乃は美穂と同じTシャツを着ていることに気づいた。もちろん生徒も含めてクラス全員同じなのだが、それでも同じものを着ていると思うと、嬉しい。


 競技が始まると、陽菜乃は仕事に集中しようと自分に言い聞かせる。

 競技に出場する生徒の位置を確認して、整列させる。それでも、目の端に美穂が見える。美穂は笑顔で生徒会の生徒たちと談笑している。

—ああ、いい先生なんだろうな。こんな風に自然に笑うんだ。

 心の奥で少しだけ羨望混じりの尊敬を感じていた。


 昼休憩のあと、午後の競技が始まった。仕事もひと段落し、職員席に座って競技を見ていると、陽菜乃を呼ぶ柔らかな声が聞こえてきた。

「久慈先生、ちょっといい?」

 振り向くと美穂が近づいてきていた。

 あっ、目が合った。ちょっと緊張する…!

「その髪型、ポニーテールも似合ってるね」

突然の言葉に、陽菜乃は一瞬息をのむ。

—え、今褒められた…?いや、絶対褒められた!

 顔が熱くなり、思わず目線を下に落とす。

 生徒たちを一緒に応援しながら、美穂の声や仕草に心を奪われる陽菜乃。

 どうしよう。隣にいるだけでそわそわして落ち着かない… 心のどこかにあるのは、美穂に少しでも気づいてもらいたいという気持ち。

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