第4話 意識しすぎ!

 4月も半ばを過ぎ、校内は少しずつ5月に行われる体育祭モードに切り替わっていた。

 放課後は委員会や係の打ち合わせで生徒も教員もざわついていた。

 美穂は生徒会の担当教員。その背中が生徒会室に消えていくのを陽菜乃は目で追ってしまう。

 今日は一緒に準備できないんだ… 別にいいもん、私は大人だし。いちいち寂しがるなよ。

 そう思っても心のどこかで落ち込んでいる自分も確かにいた。


 陽菜乃は1年1組担任の塚田とともに、環境委員の担当になっていた。倉庫にある掃除用具や備品の数を生徒と一緒に数えながら、塚田が何気なく言った。

「そういえば、日比谷先生ってさ」

「え」

思わず作業をしていた手が止まる。塚田は首を傾げたが、気にせず続けた。

「久慈先生は、同じクラスでどう?一緒にやりやすい?」

—や、やりやすいって?どうって何?

「…あー、えっと…はい。信頼できますし、いい先生だと、思います…」

 なんとか無難な言葉を吐き出す。一瞬声が裏返ったのは聞こえてないはず… 

 なんか意識しすぎかな?


 夕方の空き教室。美穂が、生徒会の数名と体育委員と一緒に話し合いをしているのが窓越しに見える。

—だめ。そんなにじっと見てたらただの怪しい人になっちゃう。

 その瞬間、美穂がふと廊下側に目を向けた。陽菜乃はサッと目を逸らす。

 ギリギリ目があってない…と思いたい。


 委員会の作業が終わったあと、打ち合わせ資料を取りに行く途中、偶然美穂とすれ違った。

「お疲れ様。委員会の方は順調?」

「は、はい!まあ、なんとか」

 声がうわずったのを誤魔化すように、抱えていたファイルを持ち直す。

「そう。ならよかった。何かあったら言ってね」

 美穂の言葉はただの仕事上の、同僚としての言葉。それなのになぜか嬉しくなる。

—このペースで気持ちが大きくなったら…私、どうしようかな。

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