第2話 はじまり
入学式。前日までの静けさが嘘のようにざわめいていた。女子高生の声が校舎中に響き、春の匂いと混ざり合う。
陽菜乃は職員室で配布書類を抱えながら、美穂を待っていた。
「久慈先生、おはようございます」
美穂の声が聞こえて振り返る。
白のブラウスに、グレーのジャケット。襟元には薄桃色のスカーフがふわりと結ばれていた。
—ダメだってば。ますます私の好みに寄っていってるじゃないか。
そんなことを考えていると、美穂は軽やかに続けた。
「今日は忙しいけれど、一緒に頑張りましょうね」
体育館での入学式。教員紹介で壇上に上がると、新入生の初々しい制服姿に微笑む。
隣では美穂が自己紹介をする。距離が近いってば。
「1年3組担任の日比谷美穂です。皆さんがこの学校で、自分らしく過ごせるように、支えていけたらと思います。よろしくお願いします」
美穂の言葉は形式的な挨拶のようでいて、不思議な説得力があった。
陽菜乃は自分も支えられているような気がしていた。
入学式のあと教室に戻ると、ホームルームの準備が始まった。
副担任として、陽菜乃は書類を配ったり、提出物を回収したりと忙しく動く。
しかし、ふとした瞬間に美穂に視線を向けてしまう。
板書をしながら生徒に視線を向けるときの動き、質問に答えるときの穏やかな声。その全てが今の陽菜乃には心地よく思えた。
放課後、美穂と一緒に職員室で書類をまとめる。
夕方の職員室は、オレンジ色の光が差し込んでいた。
「久慈先生は、初日どうだった?」
書類を束ねながら美穂が尋ねる。
「…少し緊張しましたけど、なんとかなりました」
ふふ、と美穂は小さく笑う。その顔を見た瞬間、陽菜乃はもっとこの人のいろんな顔を見てみたい、と思ってしまった。
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