ラムネソーダ
にとらかぼちゃ
序章
アブラゼミの声がヒグラシの声に変わる頃。いつも思い出す。
小五の夏休み、父方の祖母の田舎に遊びにきていた。
遊びに来たと言うよりは預けられた感じだけど。
祖母の家は絵に描いたような古い田舎だったから
ゲームセンターやデパートなんてないし、
午後8時には閉まってしまうコンビニエンスは車で何十分てところだし、歩いていけるのは無住職のお寺の横にある古びれた今にもつぶれてしまいそうな駄菓子屋みたいなのが1件だけだった。
その夏、共働きでかまってやる暇がないからと休みの始めに自分1人を祖母の家に置いて、
母は『それでは暫くお願いします。ちゃんとということを聞くのよ?』とそっけなく言い、そそくさと千葉へ戻ってしまった。
自分としては別に留守番が毎日でもかまわなかったが、父母の方がなにやらあるらしく、自分は暫くいないほうがよいらしかった。
行きの車中、母子での会話なんて殆どなかったように思う。父が仕事で送れない代わりに母の運転での移動となったが、どことなく息苦しいような、どこでもいいから早く、空間から解放されたいと思うそんな車内だった。
思い詰めたような、ため息ばかりの母を見るのは辛かった。
その頃、父と母がしゃべるときは口論のようなことが多くなっていた。
あまり気にしないようにしていたが、
それを思うと次に二人にあうのが少し怖かった。
どちらかが他人になってしまうんじゃないかと感じた。
祖母の家に着いて、言われるままに案内されたのは昔、父が使っていたという古い畳の部屋だった。
二階なんてなかったから、
祖母の寝床を行き来せねばならず、一度部屋に入ると暫くは部屋から出なかった。
身内でも誰かの生活の匂いがするところはあまり好きではなかったから。
そして、日当たりのよい窓際の机の上に
やる気なんてちっともない宿題を無造作に放り出した。
山中の田舎とはいえ、冷房のない部屋は扇風機だけでは寝苦しそうだった。
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