異世界発展村++〜クラフトシミュレーションの世界に転生。元平民だと追放されたので、チートスキル[植物建築]で、なぜかついてきてくれた婚約者の天才美少女とチルくてストレスフリーな領地開拓スローライフ〜
幸運寺大大吉丸@書籍発売中
第1話 追放された相手を1発ぶん殴って一旦チル
―side ウィル―
「ウィル=アーデン。貴様の罪は重い」
王都・白金の大広間。
磨かれた床の上に、俺は一人立っていた。
魔道士団の紋章が刻まれた黒のローブは、昨日までの誇りの象徴だったはずなのに、今はまるで罪人の鎖のように重い。
高座に座る男が、鼻にかかった声で宣告する。伯爵家出身、魔道士団団長──レオポン=アンポン=ポンポン。
その名前の響きにふさわしく、見た目も中身も膨れた男だった。
前線に出たことなど一度もないくせに、戦場で血と泥にまみれた者たちを見下ろして嗤う典型的な貴族だ。
「お前の独断専行により、王国の威信は著しく損なわれた。隣国との和平交渉も、貴様の勝手な攻撃魔法が原因で破談になったのだ」
ポンポンは重々しい空気で話を切り出す。
「それ、俺じゃないけどな。そもそも和平交渉の現場に、俺いなかったし」
一方の俺は無罪を主張する。側から見れば飄々とした様子だと思う。
「黙れ! 証拠は挙がっている!」
うん、ポンポン気に入らなさそうな表情してるもん。間違いない。
しかし、その“証拠”を作ったのが誰かなんて、もう皆知っている。
俺が平民出身で、しかも陛下に一目置かれていたことが面白くなかっただろう目の前いにいる人物とその取り巻きだ。
魔法で戦場を焼き払い、国を勝利に導いて伯爵家にまで成り上がった英雄は、結局“血筋”のない異物に過ぎなかったと言ったところだろう--と悲劇のヒーローぶって自画自賛してみる。うん、我ながら自分のことを英雄って言うのどうかしてると思うから、ここだけの話にしよう。
「……ふうん。で?」
「ふん……!そんな態度をしているのも今のうちだ!喜べ!宮廷魔道士団長より、貴様に辞令が出ている。行き先は……隣国より奪還した腐食の大地、通称“黒の領地”。本来宮廷魔道師団で管理しているところだが、そこをお前にやるとの事だ」
周りにいた貴族たちの間に、どっと笑いが広がった。
腐食の大地──生物が住めぬとされた呪われた土地。追放……いや、下手したら、死刑と同義の左遷だ。
ウィルは小さく息を吐くと、目を閉じて肩をすくめた。
「なるほど。つまり、“俺ごと決してついでに功績を消したい”ってことか。わかりやすくて助かる」
「ふんっ!わかればよかろうなのだ」
「けど、ムカつくのはムカつく」
「え?」
俺はツカツカツカツカ……と歩いていく。
「な、なにを……!」
ポンポンが立ち上がる。顔が真っ赤だ。
そして――バッッコーーーーーン!
それはそれは、とても良い音が響いた。
拳がポンポンの頬を撃ち抜いたのだ。
伯爵家の息子は、まるで壊れた人形みたいに床に転がった。
スッカーーーッ!
「口ばっかりで、戦場の血の匂いも知らねえくせに。俺を陥れて満足か? 貴様らの腐った貴族根性の方が、よっぽど“腐食”だよ」
静寂。俺の威圧に誰も声を出せないみたいだ。結局彼らは口だけ。俺はローブの襟を正し、最後に冷ややかに言い放つ。
「じゃあな。せいぜい隣国との和平条約で不利にならないようにな」
♢ ♢ ♢
「ゴクリッ!ふーーーーっ!」
水をいっぱい飲んで、一旦チルする。
前線に出る頃の多い俺は、普段から大体のものをマジックバッグに入れて持ち歩いているため、移動の準備は早い。
魔道師団の拠点からでる。
扉を開けた瞬間、眩しい光が差し込んだ。
「やっほー」
外では、ひとりの少女が俺に向かって手を降っている。銀髪を結ったキラキラとした光り輝く青い目をした天才魔道具師、シンディー=レーン。
王家の血を引く公爵家の一人娘であり、俺の婚約者であり、唯一信じてくれた存在。
それだけ聞くとものすごい良物件に思えるが、マッドサイエンティストという特徴が全てを台無しにしている。
非常に残念な物件である。ちなみに、シンディが俺に興味があるのも、いつか俺を解剖してみたいとか思っているかららしい。その事実からはもうずっと目を逸らしている。
「やっぱり、殴ったんだねえ」
「我慢できなかった」
「ふふっ!そういうところ嫌いじゃないよ。むしろ僕もあの事実を知ってスカッとした!あー出来ることならあの師団長の脳を解剖して研究したかった……!どうやったら、あんな思考回路になるのか、興味は尽きないよねえ」
「おい、やめろ。お前が言うと冗談に聞こえない」
「冗談じゃないもん」
「尚更やばいわ!」
シンディーは軽く笑う。彼女にはマッドサイエンスの側面もあるのだ。
彼女はそっと手を伸ばす。戦場で焼けたウィルの手を包み込むように柔らかかった。
「で、次はどこ行くの?」
「腐食の大地だってさ。どうせ死ぬなら、そこで新しい世界でも作る」
「ふーん。じゃあ、僕も一緒についていくよ。あそこの大地の研究もしたかったしねえ」
「まじかっ!お前……家のことは……いや、あの家でお前に逆らえるやつなんていないか。本当に狂ってるな」
「キミに言われたくないねえ……あの場で偉い人をなんの躊躇いもなくぶん殴るのってキミぐらいじゃない?サイコパス命知らず様」
「お互い様だこら」
ウィルは少しだけ笑った。
「お互い様だねえ」
シンディもニヤリと笑う。
中々どうして、俺たちは相性の良い。
「まあ、生き延びて楽しく落ち着いてのんびり、ストレスフリーに暮らそうよ、俺たちの“領地”でな」
「だねー、楽しみ〜」
俺たちはスカッとした気持ちで、振り返らずに歩き出した。王都の塔の鐘が鳴る。その音が、英雄の終わりと、世界の再構築の始まりを告げていた。
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