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「どうしてそんな風になっちゃったの?」
人形みたいになった彼を見下ろして私は問いかけた。しかし、返事はない。
彼はまだ自分の身に起きた信じがたい異変に気づいていないようで、スヤスヤと安らかに寝ている。
呑気だなぁ。
私は彼のお腹辺りを人差し指でつついた。それは普通サイズの人間と何ら変わらない感触だった。
数回つついたところで彼はようやく目を覚ました。これまた呑気に伸びをした後、やっと事の次第に気がついたようで慌てた様子で立ち上がる。立ち上がったところでサイズは変わらなかった。
「おはよう。って言ってもまだ四時前だけどね」
彼は自分の身体と私の顔を何度も確認する。そして口を開いた。
何かわめいているようだったが、私の耳には蚊が飛び回っている時のようなか細い音しか聞こえない。
サイズの縮小に伴って声まで小さくなっているらしい。
「ごめん、何言ってるのか全然わかんないや。あ、ちょっと待ってて」
声が聞こえないなら文字にしてもらおう。
ベッドサイドで充電していた自分のタブレット端末を手に取り、メモアプリを開いてから彼の側にそっと置く。
彼は私の意図に気づいたようで、自分の身体と同じくらいのタブレットに飛びついた。
そして言葉をつむぎはじめる。
『なんだよこれ わけわからん おれどうなった?』
「さぁ? 小さくなっちゃったのは確かだね」
『いみわかんねー どうやったらもどれる』
「そんなん聞かれても私にもわかんないよ。原因がわかんないんだから」
彼は私をキッと睨み付け、また入力し始めた。
『なんでおまえそんなれいせいなの おかしいだろ』
冷静。冷静かぁ。
そんなことはない。私の中ではある感情が沸々と煮えたぎっている。
「ふふ。そのままでいいんじゃない? 戻れなくて。かわいいし」
私の言葉に彼は激怒したらしい。
タブレットの側を離れ、ベッドサイドに座る私の腕を蹴りつけた。が、痛くも痒くもない。
いつもとは違う。
「ほら、かわいい」
何度も私を蹴りつける足をむんずと掴み、持ち上げる。彼はなす術もなく宙に浮いた。逆さまになった彼は無意味に両腕を振り回す。
「いつもと逆だね」
彼は小さな顔を歪めた。
「いつもはそっちがやりたい放題だけど、今は逆だね。どう? いたぶられる気分は。あんたもこうなっちゃうかもね」
私は彼を掴んでいる反対の手でスウェットパンツを捲って見せた。黄色や青、紫色のカラフルな痣が足全体を覆っている。
「あんたは知らないかもだけど、痛いよ」
彼はより一層暴れはじめた。ようやく自分の立場を理解したらしい。
「コラコラ、暴れないの」
私は彼のお腹辺りを指先で軽くつねった。彼は振り回していた腕をお腹に当て、痛みに悶える。軽く、のはずだったがそうとう痛かったらしい。
いい気味だ。
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