ちいさなせかい

マリエラ・ゴールドバーグ

1

 チャンスは急に巡ってきた。

 私はこの小さな生き物をどうにかしなければいけなかった。


※※※

 深夜三時のことだった。

 その日はいつも通り出勤して、いつも通り家事をして、いつも通り遅くまで起きて同棲中の彼の帰りを待っていた。

 十二時を三十分は過ぎた頃、彼が酩酊状態で帰ってきた。

 その後もいつも通り。酔っぱらって前後不覚になった彼をなだめすかし、ようやく寝かしつけたのが深夜一時過ぎ。

 本来は私の物のはずのベッドを占領し、フガフガと奇妙な寝息を立てている彼に呆れた視線を送ってから私も床についた。

 ベッドの下に敷いたせんべい布団。もはや布団の機能をほぼ果たしていない。仰向けに寝転がると背中やお尻にフローリングの固さを感じる。それは横向きに寝てもうつ伏せになってみても同じことだった。

 それから一時間ほどうとうとして、眠りに入った深夜二時。そこで一度私の記憶は途切れる。

 そして深夜三時。

 異様な暑さと肌寒さを感じた私は自分の意思とは逆に閉じようとする目を抉じ開け、部屋の電気をつけた。彼がいない。私のベッドで寝ているはずの彼がどこにもいない。

 トイレに行ったのかと思い、部屋を出て冷たい廊下を数歩進む。トイレの電気はついていないし、念のため扉を開けてみても誰もいない。

 今度は居間を確認する。扉を開け、壁に設置されたスイッチで電気をつける。居間ではラグドールのカナエちゃんが定位置であるローテーブルの下で心地良さそうに眠っている。こちらのことは何も気にしていない様子だ。

 カナエちゃんは彼が同棲前から飼っている猫だ。彼はカナエちゃんを溺愛しているが、当の本人 (本猫?)は連れない態度でいる。私とカナエちゃんは付かず離れず、適当な距離感を保っている。

 閑話休題。

 やはり彼はいない。これは一体どういうことだろう。

 こんな夜中に外へ?

 しかし、彼愛用のダウンジャケットはハンガーに掛かっている。スマホもテーブルの上に起きっぱなしだ。

 それに狭い部屋だ。外へ行ったのなら寝ていたとしても玄関が開く音に気がついたはず。

じゃあやっぱり部屋の中に?

 私は狭い部屋の中をあちこち探した。

 いない。

 私はそこで諦めた。子供じゃないんだし、どうとでもなる。

 明日も仕事なんだから早く寝なくては。

私はすっかり冷えてしまった身体を擦りながら寝室へ戻った。そしてさっきまで寝ていたせんべい布団に入ってふと思った。

 彼がいないなら自分のベッドで寝ればいい。

 私は布団から這い出てベッドの側に立った。そしてあたたかい羽毛布団をバサッと捲った。

 あ。

 彼だ。

 私はようやく彼を見つけた。私のベッドでグースカ眠っている彼を見つけた。ただし彼は小さな女の子が好むような人形くらいのサイズになっていた。

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