エピローグ:検索できない名前

名前を検索しようとして、手が止まることがある。

「千穂」と、ローマ字で、あるいは漢字で打ちかけて、やっぱりやめる。

たぶん、検索したら、見つかるだろう。

教員をしているかもしれない。結婚して、名字が変わっているかもしれない。

でも、自分の中にいる千穂は、ドーナツ屋でカフェラテを飲みながら、「信じてるよ」と言ってくれたあの千穂だ。

そのまま、そっとしておきたい。

誰かに信じてもらった記憶は、それだけで灯火になる。

真っ暗な夜でも、自分を見失いそうな時でも、その火は消えなかった。

人生は、うまくいかないことのほうが多い。

でも、あの人が信じてくれた自分を、もう一度、自分で信じることができるなら。

それは、生きていくうえでの、

たしかな支えになる。

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ドーナツとカフェラテとー検索できない名前を胸に @kitano_kokage

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