かわいい街道♡ピンクのわだち【短編置き場♥♥♥】
九十九 弥生
かわいい街道♡ピンクのわだち
私は死に立ち止まってやる暇がなかった
だからあっちがやけに礼儀正しく私のところで止まった
――エミリー・ディキンソン
光から出て、夜へ入る
――メタリカ
あなた方は白く塗られた墓のようで
外側は美しく見えるのですが……
――マタイによる福音書23章27節
大学三年生、二十歳。文学部に籍はあるが、最近はろくすっぽ講義にも出ていない。ゼミの教授には「出席日数がかわいいことになってるな!」と言われたが、その冗談すら耳に残らなかった。
この日も行き先は決まっていなかった。ぼんやり「海でも見に行こうか」と思ってハンドルを切ったはずが、気づけば山のほうへ向かっていた。ナビの画面には目的地が表示されていない。あるいは、最初からどこにもたどり着くつもりがなかったのかもしれない。
窓を少し開けると、風が入り込んでダッシュボードの上のチラシをひらひらと揺らす。さっき立ち寄ったドライブインで渡された観光案内――「ようこそ! 笑顔あふれる〇〇町へ」というコピーの下に、ハート型のキャラクターが満面の笑みで印刷されている。まるで幼稚園児の落書きを拡大して刷ったようで、見れば見るほど目の焦点が合っていない気がした。
カーオーディオから流れていたのは、ビートルズの『オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ』。妙に陽気なその曲調が、曇り気味の窓ガラスとがらんとした田舎道には似合っていない。同じフレーズばかりが繰り返される。楽しげというより、むしろ空気を食い破るように不気味だった。健太は眉をひそめ、ラジオ局を変える。
次に流れ出したのはジ・アニマルズの『朝日のあたる家』だった。くぐもったオルガンと湿ったボーカルが、さっきまでの陽気さを嘲笑うように車内を満たしていく。曇った窓越しに広がる田舎道に、曲の暗さがいやに似合いすぎていた。
胸の奥がざわつき、健太は慌ててステレオを切った。車内は一瞬にして静まり返り、耳に残ったのは蝉の声とタイヤが砂を噛む音だけだった。
やがて道が細くなり、舗装の色が変わっていく。アスファルトのグレーは途切れ、そこから先はやけにピンク色をした道がまっすぐ伸びていた。
街灯はキャンディーケインのように白と赤の縞模様で、歩道のベンチはマシュマロを巨大化させたような丸っこい形をしている。すべてが「かわいさ」を意識した造形で、無理やりテンションを上げた遊園地の裏口のようだった。
ナビアプリが唐突に喋り出す。
「目的地に到着しました」
健太は思わず眉をひそめた。目的地なんか設定していない。
画面には、ふざけたような地名が表示されていた。
――「かわいい街道」。
観光案内所は、場末の道の駅を無理やりポップに飾り立てたような建物だった。
外壁はストロベリーミルク色に塗り固められ、窓枠はミントグリーンで縁取られている。軒先には、アイスクリーム型の街灯が等間隔で並び、昼間でもぼんやりと光を放っていた。
ガラス扉には無数のシールが貼られていた。「ようこそ♡かわいい街道へ」「笑顔は一番の観光資源!」「みんなでハッピー♡」――文字はピンクとラベンダーを基調に、ハートや星のイラストがこれでもかと散りばめられている。その過剰さは、小学生が画用紙にスパンコールを貼りすぎて、逆に何を描きたかったのかわからなくなった作品のようだった。
健太が戸を押して入ると、冷房の風が顔にぶつかってきた。冷気には市販の甘ったるい芳香剤の匂いが混じっていて、思わずむせそうになる。香りは「ストロベリー・ショートケーキ」とラベルにあるのだろうが、実際は消毒用アルコールと砂糖を無理やり混ぜたような臭気だった。
室内も徹底してかわいいで埋め尽くされていた。壁一面にパステルカラーのキャラクターが描かれ、そのどれもが同じような大きな瞳と、同じような三日月型の口をして笑っている。棚にはマスコット人形が何十体も並び、すべて同じ微笑みを貼り付けていた。
あまりに整然としていて、逆に生き物らしさが感じられない。まるで笑顔という名の工業製品が規格通りに製造・陳列されているかのようだった。
カウンターの奥から、少女が現れた。
「観光大使です♡」
明るい声と同時に、ふわりとスカートの裾が揺れる。白地にピンクの小花柄のフリルワンピース。髪は高い位置で二つに結ばれ、リボンが光を反射してきらりと瞬く。背は小柄で、だがワンピース越しにわかるほど胸は豊かで、ウエストからヒップにかけては人形のようにくっきりとしたラインを描いていた。絵に描いたような「かわいい」を全身に貼り付けた姿。
健太は思わず息を呑んだ。これほどまでに計算された可憐さを実物で見たのは初めてだった。まるでアイドル雑誌から抜け出してきたような存在。
だが次の瞬間、背筋に冷たいものが走った。
彼女の笑顔は完璧だった。唇はほんのり桜色で、頬には自然な紅が差している。だが――その目の奥だけは、なぜか焦点が定まっていなかった。視線は健太を向いているようでいて、ほんのわずかにずれて、どこか遠くの、誰もいない場所を見ている。
その違和感が、かわいらしさを引き立てるどころか、かえって安っぽいマネキンに命を吹き込んだような不気味さを際立たせていた。
「ようこそ、かわいい街道へ♡」
桃子ちゃんと名乗った少女は、笑顔のまま、まるで録音テープのように同じイントネーションで言葉を繰り返した。
「かわいい街道はね、三キロもあるの♡」
桃子ちゃんは胸の前で指を三本立て、子ども番組のお姉さんのように身振り手振りを加えながら説明を始めた。
「歩くだけで笑顔になれる道なんだよ♡ 道の両側にはマシュマロベンチ、キャンディの街灯、季節ごとに変わるお花のプランター! ぜんぶ、ぜんぶ、みんなを幸せにするために並べてあるんだよ♡」
健太は一瞬、その言葉に苦笑した。まるで町役場の観光課が深夜の会議で決めたスローガンを、少女に暗記させて読み上げさせているようだ。イントネーションまで完璧で、逆に人間らしさを欠いている。録音テープの続きをただ再生しているような……。
だが、目の前で揺れるツインテール、フリルワンピースの胸元を押し上げる豊かな曲線、つま先で軽く弾む仕草――その一つひとつが、健太の理性をやすやすと奪っていく。
(いや、待てよ。目の奥……)
さっき感じた焦点の合わなさが、また頭をよぎった。どこを見ているのか分からない視線。だが、笑顔でこちらに話しかけてくる桃子ちゃんを前にして、それを指摘するのは野暮に思えた。
「かわいい街道に来てくれて、本当にありがとう♡」
彼女は両手を胸の前でぎゅっと合わせ、小さく跳ねるようにお辞儀をした。その仕草はあまりにも可憐で、健太は違和感よりもむしろ、胸の奥に甘い熱を感じている自分に気づいた。
「じゃあ……あたしが案内してあげるね♡」
桃子ちゃんはそう言うと、くるりと背を向けた。ツインテールがふわりと跳ねて、リボンの光沢が蛍光灯を反射する。その仕草だけなら、地方アイドルのステージを切り抜いてきたように愛らしい。
観光案内所を出ると、ふたりはすぐにピンク色の舗装へと足を踏み入れた。道はどこまでもまっすぐで、両側のキャンディ街灯が規則正しく立ち並んでいる。桃子ちゃんはぴょんぴょんと軽くステップを踏むように歩き、時折振り返っては「こっちだよ♡」と手を振った。
赤と白の縞模様が均等に並ぶ光景は、遊園地の飾りつけをコピー&ペーストしたようで、可愛いというよりも機械的で冷たかった。
歩道にはマシュマロのようなベンチが置かれていた。大きく膨らんだ白い塊はふわふわしていそうに見えるが、表面は硬質な樹脂で、どこか人工臓器を思わせる異様な艶を放っていた。
街道には音楽が引っ切り無しに流れている。
見えないスピーカーが埋め込まれているらしく、歩調に合わせるようにしてメロディが追いかけてくる。
曲は『夢見るシャンソン人形』。
フランス語の歌声は軽やかで、キュートで、ポップそのものだった。だが、この田舎道で聞くと、それは子守歌のようでもあり、死体に口紅を塗る儀式のようでもあった。
桃子ちゃんは時折、振り返りながらニコニコ笑顔をよこしてくる。
「このベンチ、かわいいでしょ? マシュマロみたいに見えるけど、固いんだよ♡ だから雨が降ってもへっちゃらなの!」
「ほら、この街灯! 夜になると、キャンディみたいに光るんだ♡ 季節ごとに色が変わるんだよ、クリスマスは緑と赤で、ハロウィンはオレンジと紫♡」
語尾にハートがついて聞こえるような声。抑揚は明るく、笑顔は完璧。けれど、その足取りは妙にぎこちなく、機械仕掛けの人形が演じているようにも見えた。
健太は「気味が悪い」と心のどこかで思ったが、目の前で弾む肩や揺れる胸元を見てしまえば、違和感は簡単にかき消されていく。
「ねぇ、せっかくだから歩いていこう♡ かわいい街道は、歩くともっとかわいいんだから!」
桃子ちゃんは無邪気にそう言って、両手を後ろに組み、ひょいと一歩先を急いだ。
健太は小さくため息をつき、結局その背中を追いかけて歩き出した。
曲が変わった。次に流れてきたのは『小さな世界』だった。
オルゴールのイントロに続いて、子どもの合唱が「世界はせまい、世界は同じ♪」と歌い出す。あまりにも明るく、無邪気で、反論を許さない種類の幸福を押しつけてくる声。健太は思わず耳を塞ぎたくなった。けれど、桃子ちゃんは違った。
「ね、かわいいでしょ?♡」
彼女は笑いながら、突然健太に抱きついてきた。体温は柔らかく、胸のふくらみが押し当てられ、甘ったるい香水の匂いが耳もとを包む。健太の心臓は反射的に跳ね上がり、頭の奥が真っ白になる。
(いや……おかしい。目が、やっぱり……)
心のどこかで警鐘が鳴っていた。桃子ちゃんの瞳は、近くで見れば見るほど焦点が合っていない。笑顔は完璧だが、目の奥だけは空っぽだ。
それでも健太は、その違和感に抗うよりも、抱きしめられている事実に酔わされていった。
「かわいい街道はね、最後まで行けばもっと素敵なんだよ♡ もっと、もっとかわいいものが待ってるの♡」
彼女は耳もとで囁き、ふっと離れると、今度は両手を背に組んでスキップするように先へ進んでいった。
健太は喉の奥に張りつくざらついた不安を覚えながらも、結局その背中を追った。
陽気な合唱はスピーカーから離れず、足並みに合わせてずっと流れ続けている。
「世界はせまい、世界は同じ♪」
繰り返される歌詞が、祝福のように、あるいは呪文のように健太の耳に絡みついた。
「歩くだけじゃもったいないよ♡」
桃子ちゃんは振り返り、リボンを揺らしながらウィンクした。
「せっかくだから、わたしの車で案内してあげる♡」
案内された駐車スペースに、それは停まっていた。
軽トラのはずだった。だが外装はまるで別物だった。全身はパステルピンクに塗られ、ボンネットには桃子ちゃん自身を模した巨大イラスト――ツインテール、フリルワンピ、桜色の笑顔が描かれている。ドアには「Welcome to かわいい街道♡」とラッピングされ、荷台にはぬいぐるみがぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。
ヘッドライトにはウサギの耳を模したカバーが付き、ナンバープレートは「39-39」。それはサンキュー サンキューの語呂合わせだと桃子ちゃんが得意げに説明した。
健太は思わず笑ってしまった。滑稽で、馬鹿げていて、だが確かに一周回ってかわいいのかもしれない。
しかし、フロントガラスに貼られたデカールだけは笑えなかった。桃子ちゃんと同じ顔が何十枚も、角度を変え、大きさを変えて敷き詰められている。その笑顔はどれも完璧に同じで、増殖する笑みが窓からこちらを覗き返しているようだった。
「さ、乗って♡」
桃子ちゃんは助手席のドアを開け、健太の腕を引いた。力は細い腕に似合わず強く、引かれるままに乗り込むしかなかった。
キーが回され、エンジンが唸りを上げた瞬間、車内のスピーカーから再び音楽が流れ始めた。今度は『イエロー・サブマリン』。子どもじみた合唱が、痛車の鉄の箱の中でやけにこもって響いた。
桃子ちゃんはハンドルを握り、笑顔を崩さないままギアを入れた。
軽トラはキャンディ街灯の列に沿って、猛然と走り出した。
「じゃ、しゅっぱーつ♡ 安全運転だよ♡」
桃子ちゃんはそう言って、ペダルを一気に踏み込んだ。
軽トラは獣が跳ねるように前へ飛び出し、メーターの針はあっという間に時速百キロを越えた。舗装されたピンクの路面が窓の外で滲んでいく。
通り沿いの住民たちは、最初こそ手を振っていた。だが車体が風圧とともに迫ると、表情が笑顔から悲鳴に変わり、慌てて道端に飛び退いた。買い物袋が宙に舞い、トマトが潰れて赤い汁を撒き散らす。子どもが泣き叫び、犬が吠え、ベビーカーが横転する。
けれどそのすぐ上、スピーカーから町内放送が響き渡った。
「ただいま観光演出中です! 観光客の皆さん、ぜひ笑顔で手を振りましょう!」
悲鳴を上げていた人々は、次の瞬間、まるで操り人形のように表情を引きつらせて手を振った。歯を食いしばり、涙を浮かべながら、それでも笑顔の形を崩さずに。
「ほら、みんな喜んでる♡」
桃子ちゃんはハンドルを軽く切りながら、嬉しそうに言った。
健太はシートベルトに押しつけられ、吐き気と恐怖で声も出なかった。
軽トラはピンク色の舗装を滑るように走り抜け、次の瞬間、スイカ売りの屋台に突っ込んだ。
バリッと木枠がはじけ、積み上げられていたスイカが空中に舞う。緑の殻が次々と割れ、赤い果汁が飛び散った。
……それだけなら、夏祭りの余興のように見えただろう。だが、屋台の陰にいた老人の体も同じように砕け、果肉と区別のつかない赤黒い臓物が地面に散乱した。
「夏の風物詩ですねぇ!」
町内放送がはしゃぐように叫んだ。
すぐ横の観光課職員らしき男が、血まみれの光景をスマホで撮影し、そのままプリンターに差し込む。数秒後には「笑顔あふれるかわいい夏♡」と題された観光パンフレットが吐き出され、まだ温かい血のしぶきに濡れていた。
車はさらに加速した。
子どもを連れた母親が振り返る間もなく、バンパーが体をはね飛ばした。母親の頭は街灯に叩きつけられ、破裂したスイカのように脳漿を散らした。子どもの小さな体は舗装のピンクに擦りつけられ、肉が剥がれてキャンディ色の路面に張り付いていった。
「わっ、見事な色合い♡」
桃子ちゃんが笑顔で言った。
「赤とピンクって、ほんと相性いいんだよ♡」
健太は青ざめて叫んだ。
「人が死んだんじゃないか! こんなの観光じゃ――」
しかし、道端の住民たちは一斉に笑顔を返してきた。血で濡れたシャツを着たまま、骨の飛び出した腕で、それでも手を振る。
「かわいいから大丈夫」
「かわいいから大丈夫」
口々に繰り返す声は、街中のスピーカーから流れる『小さな世界』と重なり合い、まるで地獄の合唱団のように響いた。無邪気な子どもの歌声に、大人のひきつった笑顔と呻き声が混ざり、耳障りなほど明るく空気を満たしていく。
その中で、車内のスピーカーからはビートルズの『イエロー・サブマリン』が鳴り響いている。
♪We all live in a yellow submarine, yellow submarine, yellow submarine…
陽気すぎる合唱が車体の内側でこだまし、外から流れる「世界はせまい、世界は同じ♪」とねじれるように重なった。
ふたつの曲は調子も言語も違うのに、不気味に同じリズムで揃い始める。まるでこの街道全体が、一つの巨大なスピーカーになって健太の耳を圧迫しているようだった。
軽トラはさらに人の群れへ突っ込む。
足が、胴が、首が、次々と弾かれ、空中で花火のように散っていく。臓物と果汁と血が混ざり合い、舗装のピンクに虹色めいた艶を与えていた。
街道の終点が近づくころ、桃子ちゃんはハンドルを握ったまま、いつもの調子でウインクした。
「観光大使はね、一人じゃないんだよ♡」
健太はぞくりとした。振り返ると、道沿いのフェンスにずらりとポスターが並んでいた。どれも同じフリルワンピにツインテールの少女。笑顔は等しく完璧で、胸を張り、かわいらしく手を振っている。
だが近づいて目を凝らすと、血の気が引いた。
顔が、少しずつ違うのだ。さっきスイカ売りで弾け飛んだ老人の顔。母親の顔。泣き叫んでいた子どもの顔まで――すべて「かわいい観光大使」の衣装に貼り替えられていた。
鮮やかなリボンに縫い付けられた眼窩の陰。桜色の口紅でごまかされた、割れた歯並び。どの笑顔も硬直していて、剥製めいた質感を放っている。
フェンス一帯は、ポスターの行列というより、死者の肖像画の展示会だった。
それでも町内放送は明るく告げる。
「新しい観光大使がまた誕生しました! みなさん、笑顔で歓迎しましょう♡」
健太は、運転席の桃子ちゃんを見た。
桃子ちゃんの笑顔は、もう人間のそれではなかった。よく見ると皮膚はところどころ継ぎはぎで、頬の端がわずかに浮き、マスクのように下から別の肉色がのぞいていた。縫い目の下で蠢くのは、誰か別の顔だったのかもしれない。
「次は……君の番♡」
囁く声は、録音テープの巻き戻し音のように冷たく響いた。
その瞬間、健太は桃子ちゃんからハンドルを取ろうとしても、金属の棒で固定されたように動かなかった。アクセルは勝手に沈み込み、エンジンは悲鳴を上げながら回転数を跳ね上げる。
軽トラは観光客歓迎アーチへ向かって一直線に加速していった。
アーチには巨大な横断幕がかかっていた――「祝♡新観光大使 就任」。
その布地の中央には、まだ印刷のインクが乾ききっていない、笑顔の桜井健太の顔写真が貼りつけられていた。
ピンクの舗装が轟音をあげ、キャンディの街灯が次々と視界の端を流れていく。
健太は喉からかすれ声をしぼり出したが、BGMの『小さな世界』がそれをかき消した。
「世界はせまい、世界は同じ♪」
合唱は祝福の歌のように、あるいは処刑のファンファーレのように響いていた。
翌朝のローカルニュースは、やけに弾んだ声で報じていた。
「本日、かわいい街道に新しい観光大使がお披露目されました!」
映し出されたのは、フリルワンピースにツインテールの姿。
笑顔のポスターに写るその人物は、間違いなく桜井健太だった。肌は滑らかに修正され、瞳は大きく塗り直され、まるで最初からそこにいたかのようにかわいく仕上げられていた。
街頭インタビューの映像に切り替わる。血の跡がまだ残る舗装の上で、住民たちは歯を見せて笑っていた。
「かわいい街道に、またひとりかわいいが増えました♡」
「ますます町が明るくなりますね♡」
画面下には、町の公式キャッチコピーが大きくテロップで流れていた。
――安全運転♡で、あなたも観光大使に。
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