第6話 あなただけにお知らせします!①
ヒューの馬は素晴らしかった。
彼の言う通り、とても賢かったし、何よりも美しかった。
ホント、主にそっくりだ。
昔から不思議と動物や子どもには好かれる質だから、ナヴァロンともすぐに仲良くなって頭を撫でさせてもらっている。
いいなぁ……可愛いなぁ。
馬は好きだ。戦闘馬でなくても、どんな馬でもいい。乗らなくても見ているだけで楽しくなる。走る姿をずっと見ていても飽きることはない。
その躍動美には、いつも眼を奪われる。特に戦闘馬の筋肉の付き方、流れるようなフォルムは神が創り給うた芸術品だと常々思っている。
いつかは自分だけの馬を持ちたいというのがオレの夢だ。
ヒューが許してくれれば、今度乗せてもらおうと思いながら、馬小屋から母屋へ戻ろうとすると、呼び止める声がした。
「お姉さん、騎士様の知り合い?」
お姉さん? ああ、オレのことか
見ると、年の頃なら10歳前後の少年が意を決したようにこちらを見つめていた。
「ま、知り合いと言えば知り合いだけど。それが?」
「僕、騎士様にお願いがあるんだ。取り次いでもらえる?」
思いつめた表情と、不躾な申し出にオレは吹き出した。
「わ、笑わないでよ。僕、真剣なんだから」
「あ、悪い……悪気はないんだ。でも坊や、それじゃ話は聞いてもらえないよ、普通」
「坊やじゃない! お姉さんと幾つも違わないよ」
オレは子どもが好きだ、それもこういう生意気なのは特に大好きだ。
だから、だんだん楽しくなってきた。
「だって、坊やの名前、知らないしぃ……」
意訳すれば『まずは自分の名を名乗れ』だ。
「坊やって言うな……あ、そうか。あの、僕エトックって言うんだ……言います」
お、気がついたか。
「オレはリデル。で、そのエトック君が、騎士様にお願いって、どういうこと?」
「オレ?」
「些細なことは気にするな。内容を聞かせてくれ。でないと取り次ぐ訳にはいかないぞ」
「は、はい。僕、もうどうしたらいいかわからなくて……イエナがいなくなっちゃたんです」
「イエナ?」
「僕の隣に住む友達です」
その真剣さはただの友達とは思えなかったけど、それには触れないことにした。
「ふ~ん。その子、女の子? 何歳ぐらい」
「女の子です。年は8歳」
「可愛い?」
「えっ…可愛いです」
あれあれ、みごとに赤くなる。
「で、どういう状況?」
「一緒に木の実を採りに行って、途中ではぐれてしまって……」
「行方不明? 事故や誘拐の可能性は?」
「わかりません」
「イエナの両親は、何て言ってるの?」
「おじさんは、僕のせいじゃないから気にかけるなって言ってくれたけど、責任を感じて……」
「それは、そうだろう……よし! 騎士様に話す前にオレが相談に乗ってやるよ」
大会の開催はまだ先で、今暇だし。
「ええ~っ、お姉さんが?」
お、明らかに不満げな様子。
「任せとけ! 厄介ごとには慣れてる」
前にクレイからお前は普通の厄介ごとを壊滅的な厄介ごとにするって言われたっけ。
これは秘密だ。
「ね……」
にっこりと天使の微笑みとやらでお願いすると、エトック少年は顔を真っ赤にして承諾した。
ん……これは使えそう。
道すがら、エトック君の話を聞いたが、整理するとこうだ。
お隣のイエナちゃんは父親と二人暮しで、父親が仕事で出掛けている間はエトック君の家で預かってもらい、世話を受けていたのだそうだ。
預かり料はもらっていたが、それ以上にエトック君の両親も彼もイエナちゃんを気に入っていて、家族同然に接していたのだそうだ。
その日は、遠出していたイエナちゃんのお父さんが帰ってくるというので、晩御飯用に木の実や山菜を採りに近場の森に出掛けたところ、はぐれて行方がわからなくなったとのこと。
う~ん、正直ヤバイ状況だ。
イエナちゃんの安否はかなり厳しいように思えた。
オレは表情に出さず、エトック君に尋ねた。
「手分けして森を捜したのか?」
「それが、おじさんが捜さなくていいって、言うんだ。おかしいでしょ」
それは、確かにおかしい。
なおも聞こうとすると、エトック君が声を上げた。
「あ、父さん!」
エトック君の視線の先には、日に焼けた30代ぐらいのがっしりとした男が立っていた。畑仕事をしていたようで、土まみれの格好だ。
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