和歌ぼっち ― タイトル付三十一文字

友未 哲俊

十首連作

【数えうた】

 失くしものいっぱいあって悲しくて 「有難う」としか数え切れない


【なくしもの】

 目覚めれば朝がこんなに新しいだいじな物はぜんぶ失くして


【いつかまたきっとここでみんなに会える】

 命さえあれば赦してあげられる次の宇宙でまた会えるから


【有難う】

 有難うただ有難うをくり返す我あり今朝に独り醒めれば


くりやの風景】

 この皿に何をのせよう竈馬かまどうまひとつ此の身は如何にとやせむ


【交わる】

 嘘を抱くかのように抱くきみの肉その最奥にいのち探らむ


【短いろばの歌】


 遺 耳  君 ロ

 す の  の バ

 風 廊  な の

 あ 下  い

 と に  し は

      ょ

      の

      出

      入

      口


 動物園でデートしていたら、隣で彼女がロバの姿に釘付けにされてしまっています。私の存在などすっかり忘れ去って、1分以上もの間、ロバの瞳に魂を吸い取られていました。

 大変です、早く連れ戻しに行かなければ …


【約束】

 身をかへてこへにまた呼ぶ夕つ蟬むかし残した汝れの契りを


【そら余る】

 空蝉のなほ老木に枝を抱き空の続きは往く雲もなし


【夕陽】

 両腕に夕陽は抱えきれなくてぜんぶ赦して坂にたたずむ


 

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