エピローグ

あの日、星核の光が王都の空に昇ってから、すでに数ヶ月が過ぎた。

みやびは、かつての憎しみを宿していた黒い石を、今は肌身離さず持っている。その石は、彼女自身の物語を紡ぐための、希望の光を放っていた。


「……もうすぐ終わるのかな」


ある日の午後、みやびが不安そうにつぶやいた。

彼女の傍らで、かけるが優しく微笑んで答える。


「終わるんじゃないか? ちゃんと終わらせるって言って帰ってったんだから」

「不安〜……」


その時、地下空間の入り口から、つむぐが駆け寄ってきた。彼は情報屋として、王都の隅々まで情報を集めている。


「つむぐ!」

「よう、かける。みやびちゃん。これ、最新の新聞だよ」


つむぐが差し出した新聞の一面に、大きくこう書かれていた。


『王都の英雄たち、復興の先頭に立つ!』


その記事は、つづるが世界日報の特派員として執筆したものだった。彼はあの日の真実を、人々に正確に伝え続けている。

りんたろうは、王都の復興に尽力していた。彼はかつて瘴気に侵された信徒たちを導き、新たな聖教を築きつつあった。彼の心の中には、今もミヤビとの思い出が、鮮やかに残っていた。

みちるは、王都の図書館にこもり、この世界の歴史を調べている。彼はみやびに力を与えた者の正体についての研究を始めたそうだ。

とうまは、王都の警備隊長として、治安の維持に努めていた。彼は二度と人々が悲劇に巻き込まれないように、新たな秩序を築き始めている。


みやびはそんな英雄譚に目を細めながら、ふと疑問を投げかけた。


「そういえば、あの時、どうしてみんな正気だったの?」

「そりゃあ、円盤が人数分あったからだろ?」

「何で? 私一個しか作ってないよ」


みやびが首を傾げると、つむぐが笑って答えた。


「みちるさんがね、作り方を解明してたんだよ。で、かけるさんととうまさんが材料を持ってて、つづるさんがその作成呪文を知ってて、俺が前に埋め込まれた時に取り除いた星核の欠片を持ってたってワケ」

「そんな都合のいいことある!?」

「そもそも星核の欠片を壊すための円盤を作るのに、星核の欠片が必要なのはおかしいだろ」

「いやぁ、そっちの方が絶望させられるかなって……」


かけるのじとっとした視線に、みやびは苦笑いで返す。


「ま、そんなこんなで円盤を人数分作って、星核の欠片を壊して、操られたフリをしてたって感じ」

「演技って難しいな。じっとしてるのが大変だった」

「え〜……ご都合主義すぎる〜……」


みやびは納得出来ないと言わんばかりに嘆き、頬をぷくっと膨らませた。

残念だったな。

仲間たちが、それぞれの人生を歩み始める中、彼らは決して、ミヤビとの出会いを忘れることはなかった。

彼女がくれた、新しい物語という名の希望を胸に、彼らは、今日もまた、自分たちの手で、未来を創り続けている』


ミヤビは、自室のベッドに倒れ込むようにして、机の上に置かれた原稿用紙に最後の文字を書き込んだ。


「……終わった……!」


彼女は、声を上げて喜びを爆発させた。長かった物語の旅が、ついに終結を迎えたのだ。


「やったー! 初めて小説を完結させたぞー!」


しかし、その喜びも束の間、部屋の隅に、まばゆい光が現れる。

光の中から姿を現したのは、神々しいローブをまとった、アーキライターと名乗る存在だった。


「おめでとう、継ぎ手よ。あなたの物語は、見事にハッピーエンドを迎えた。しかし、未完の物語は、まだ世界に山ほどある」


アーキライターは、微笑みながらそう告げる。


「……え……嘘でしょ……?」


ミヤビは、頭を抱えた。

終わったはずの物語は、まだ、始まったばかりだった。

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作者の私がハイスペックなイケメンたちに溺愛される不遇少女に転生したのにそれどころじゃない。 秋空月 @tisa398

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