新居
二ノ前はじめ@ninomaehajime
新居
押し入れの天井はベニヤ板がずれて小さな隙間ができている。
狭い空間に布団を押し広げて、その暗がりを仰いでいる。目が合った。
新居に引っ越した。二階建ての3LDKで、真新しく白い外壁が印象的だった。道路に停めたトラックから業者が荷物を
作業中の場所は忙しく立ち働いているため、運び出す物が限られる二階へと足を運んだ。階段の
まだ階下の準備に取りかかっているので、二階の廊下は静かなままだった。奥から一つ前のドアが、少しだけ開いていた。揺れている。もうここにも荷物を搬入しているのだろうか。ただ、大人が動き回る足音は聞こえない。その半開きのドアを見つめていると、黒い髪の毛を垂らした頭が覗いた。おそらくはしゃがんでいる。床を、毛髪が這った。
名前を呼ばれた。姿が見えない娘の心配をしたのだろう。返事をして階段を駆け下りようとする。その直前で振り返った。ドアは閉じられていた。
引っ越し初日を終えて、両親は疲れている様子だった。夕飯は出来合いの食事で済ませて、新しい自分の部屋へと戻った。ちょうど、あの長い髪が覗いていた部屋だった。戸口をくぐると、勉強机にベッド、本棚が並んでいた。新学期に使うランドセルも置かれている。シーツが敷かれたベッドに腰かけると、スプリングが軋んだ。
これから長い付き合いになるであろう部屋の中を眺める。ふと押し入れが目に入った。黒く縁取られている。ベッドから立ち上がり、丸い引手に手をかけた。横に滑らせると、二段に区切られた狭い空間が現われた。布団が畳まれているわけではなく、何もない。目線を上げれば奥行の浅い枕棚が上部にあり、そのさらに上には天井板が見えた。ベニヤで塞がれており、独特な匂いがした。
いわゆる点検口というものだろうか。少し隙間が見えていた。その奥には
その奥から白い指が
押し入れを静かに閉めた。その日の夜、奇妙な同居人は静かだった。
新しい学校には慣れた。話せる友達もできて、新学期は
手探りで明かりを点けると、二階の廊下が現われた。素足で冷たい床の感触をなぞる。自分の部屋のドアには、私の名前が書かれた猫の形のネームプレートがかかっていた。我ながら汚い文字だと思う。
学校の宿題を終わらせるために机へと向かう。天井裏で気配がした。何かが這いずる音。勉強を済ませ、ベッドの上で畳まれた掛け布団を抱えた。押し入れを開き、布団を押し広げる。部屋の明かりを消して、その中に身を滑りこませる。
暗闇に目が慣れてくると、天井裏へと通じる板の隙間が広がっているのがわかる。黒い髪の毛が垂れて、目と鼻の先まで迫っている。その合間から生気のない白い顔が覗いた。見開かれた瞳がこちらを見下ろしている。
その子は、私と同じ顔をしていた。
狭い押し入れの中に自らを閉じこめながら、頭の片隅で考えた。私は、いつまで生きられるのだろう。
新居 二ノ前はじめ@ninomaehajime @ninomaehajime
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