Episode3:休息
「──
「……んん……ん?」
声が聞こえて、私は目を開ける。枕元に置かれた時計を見ると8:00と表示されていた。
私は一瞬ビクッとしたのだが、休職中であることをすぐに思い出した。
「……朝ごはん?」
誰かが朝ごはんがどうたら、と言った気がする。
ああ、そういえば、昨日から家にもう1人いるんだった。
「……わざわざ作ってくれたの?」
「はい!ちゃんと栄養を考えて作りましたよ!」
「はは……ごめんね。ありがとう」
平日にこんなに遅く起きることは社会人になってからなかったし、朝ごはんを誰かに用意してもらったことも長いことなかったから、少し不思議な感じがした。
「……あれ、そういえば、
「可能です。なんせ最新鋭ですから」
「へー、凄いな……」
最近のロボットって、食事もできるのか……。そういえば、AIロボットの説明書に『食事の管理』なんてページもあったっけ。これはファストフードばかり食べていられないな。
「どうぞ」
「ああ……ありがとう──いただきます」
テーブルの上には、既に食事が並べられていた。
朝食らしく、軽めではありつつも確かに色々な栄養素を取り入れられるようになっている。
味噌汁が少し薄く感じたのだが、普段飲んでいるレトルトの味噌汁はかなり食塩相当量が多いので、このくらいがちょうどいいのかもしれない。
「箱庭様、それでですね。今日はカラオケに行きましょう」
「ああ、そうだったね」
時刻は8:30。近くのカラオケ店は9:00開店だから、もう少ししたら出ていけば良いかな。確か11:00までは朝料金だったはずだ。
朝ごはんを食べ終えると、私は歯を磨いた。そして外着に着替える。
「
「服は圧縮されて保管されています。特殊繊維でできていて汚れに強いですし、定期的に自動で交換しますのでご安心を」
「へー……」
今更だが、服装が昨日と変わっていた。
昨日はドレスのような変わった服を着ていたのだが(届いた時からそうだった)、今日はかなり一般的な服を着ていた。
「ああ、そうだ。一応家の合鍵渡しておくね」
「……!ありがとうございます」
私が棚から合鍵を出して
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
私は命がドアの外に出たのを確認すると、鍵を閉めた。いつもは何度か確認するのだが、今日は不思議と自信を持って閉めることができた。
***
「2人です」
「分かりました。大人の方1人と子供の方1人で宜しいですか?」
「あ……えーと」
たまに行くカラオケ店に来たのだが、そういえば、
私はちらっと横を見る。正直言って、
「大人2人でお願いします」
「……大人2人ですか………?かしこまりました。では、利用時間の方は───」
まぁ、こうしておいた方が無難だろう。なんか、子供って言ってしまうのは失礼な気がするし。
「──では、お部屋は4階の12号室です」
「ありがとうございます」
私は
「……12号室は……あった」
部屋は割と広かった。2人だから余計に広く感じる。この時間人があまり来ないからだろうか。
「
「えーと……あ……そういえば」
「?」
「言い忘れてたんだけど、『様』なんて付けなくて良いよ。別に主従関係があるわけじゃないんだから」
「そ、そうですか?」
「うん。私は別に呼び捨てでも良いんだけどね。勝手に私は『
なんか、AIロボットが相手だと、今までの常識が通用しないんだよな。心を許しすぎるのか、デリカシーがなくなるのか、不思議な感覚だ。
「わ、分かりました……。では、箱庭さん……で……」
「歌おうか」
「は、はい!」
「じゃあ……」
そういえば何を歌おうか。
「もし、せっかくでしたら、私からでも宜しいでしょうか?」
「ああ、うん。じゃあお願い」
私が悩んでいるのを察したのか、
「───♪」
(………?)
曲名は確かにあのアニメの主題歌なのだが、メロディが全く違う。
(……これは)
それからしばらく聴いていて、漸く分かった。歌詞も合っている。バックの演奏も間違いなくその曲のものだ。ただ、
(そんなことってあるのか……?)
AIロボットが、音痴なんてことがあるのだろうか。
もしかして、限りなく人間に近づけている精神科AIの弊害なのか?
「────♪☆」
ただ、本人はノリノリで歌っている。
これはこれで悪くない。
そもそも私だって人に言えるほど上手くはないからな。
これは、良い休息の時間だ。
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