第7話

デート、と言っても柳さんは昨日着ていたスーツしか持っていない。

私のジーパンと長袖のTシャツを貸してあげたものの、私の方が身長が低いからサイズが合わず、ちょっと窮屈そうだ。


「柳さんって身長いくつですか?」

改札を抜け、ホームに向かいながら聞く。


「167cmくらい」

やっぱりそんなものか。

私は152cmしかないから、そこそこ身長差がある。


「じゃあ結構、私の服小さいですよね?大丈夫ですか?」


「田中さんの匂いがする」


答えになってない答えが返ってくる。

ちゃんと答えてくれないなら、こっちも仕返しだ。


「ドキドキしますか?」


「うん。少し」


――今、「うん」って言った?

聞き間違いじゃないよね?


冗談?

そんなことを言うタイプには見えない。


本心だとしたら、何で私のことを好きじゃない、なんて言ったんだろう。


この人の考えていること、全然分からないな。



というか、敬語をやめて欲しいと言ってから、あからさまに口数が減っている。


ただでさえ柳さんの気持ちは私には読めないのに、さらに分からなくなる。


――知りたい。


胸がざわざわしている。



考えごとをしていたら、電車から降りた人並みがなだれ込んでくる。


ぶつかる。


と、思った矢先、私の手のひらにあたたかい感触が触れた。


「前、見ないと危ない」


それは柳さんの手だった。


「ありがとう……ございます」


東京は秋模様。

肌寒い空気の中、柳さんと繋いでいる手のひらだけが熱を帯びている気がする。


柳さんはそのまま私の手を引き、私ごと電車に乗り込む。


ドアが閉まって、電車は出発する。


でも、手のひらの熱だけは私から離れなかった。



※※※



私たちはショッピングモールを目指していた。

目的は柳さんの服を買うこと。


私が提案すると、柳さんもすぐに賛成した。


――って、そんなことより、この手はずっと繋いでくれるんだ。

とか、そういうことばかり気になって、服を買う目的なんてどうでもよくなっていた。


でも、手を繋いでいる理由を聞いてしまったら、手を離される気がして聞けない。


柳さんの気持ちを、私は聞けない。



ショッピングモールに入ると、家族連れやカップルがたくさんいた。

流石に土曜日だから人が多い。

私たちのように手を繋いでいるカップルもいたけれど、みんな男女、だ。


どちらかと言うとお母さんに手を引かれているあの子どもの方が私たちと近しいだろうか。


……私たちはカップルじゃないから。



女の人と手を繋ぐのはいつぶりだろう。

きっと中学や高校の学生時代まで遡る。

友達の延長線でしか手を繋いだことがなくて、意識したことはなかったはず。


柳さんは周りの目とか気にしないのかな。


それとも女の人が好きだから、慣れている?



なんて堂々と思考を巡らせていたら、いつの間にかお店の前に立っていた。


「少し見ても良い?」

柳さんが声をかけてくる。


「もちろん!いいですよ!」

胸の内の思考がバレないよう、明るく答える。


服を手に取るために、柳さんは私から手を離した。

あーあ。

仕方ないことだけど、ちょっと残念。


……なんて、思ってないよ。

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